「良好胚を移植したのに陰性だった」
「何回か胚移植をしているけれど、一度も着床しない」
「私は着床不全なのでしょうか?」
胚移植を経験した方にとって、判定日の「陰性」という結果はとてもつらいものです。
さらにインターネットで調べると、
「反復着床不全」
「着床の窓」
「免疫」
「慢性子宮内膜炎」
など、次々と新しい言葉が出てきます。
すると、
「何か重大な原因を見落としているのでは?」
と不安になってしまうことがあります。
しかし、まず知っていただきたいのは、
胚移植が一度うまくいかなかったからといって、すぐに「着床不全」と判断するわけではない
ということです。
そして現在では、
「良好胚を○回移植したら反復着床不全」
と全員を同じ基準で区切る考え方から、より個別に判断する方向へ変わってきています。
今回は「着床不全」という言葉を、一度整理してみましょう。
そもそも「着床」とは?
胚移植では、受精して育った胚を子宮内へ戻します。
その後、
胚が子宮内膜に接着し、内膜の中へ入り込み、妊娠へ向かって変化していく一連の過程を「着床」と呼びます。
ただし着床は、
「胚を戻したら、その日にくっつく」
という単純な出来事ではありません。
胚側と子宮内膜側のさまざまな働きが関係する、とても複雑な過程です。
そのため、移植した胚が妊娠につながらなかったとしても、
「子宮が胚を受け入れなかった」
「身体に問題がある」
と単純には判断できません。
「着床不全」と「反復着床不全」は少し違います
「着床不全」という言葉は広く使われていますが、生殖医療で問題になることが多いのが、
反復着床不全(RIF:Recurrent Implantation Failure)
です。
以前は、
「良好胚を○個移植しても妊娠しなかった場合」
など、移植回数や胚の数によって定義されることがありました。
しかし、現在はこの考え方も変化しています。
欧州生殖医学会(ESHRE)は、反復着床不全について、
妊娠につながると考えられる胚を移植しているにもかかわらず、その方にとって通常期待される回数を超えて妊娠反応が得られず、追加の検査や対応を検討する状況
として、個別に考えることを提案しています。
つまり、
「2回陰性だから全員着床不全」
「3回なら必ず着床不全」
とは言えません。
なぜ回数だけでは決められないの?
胚移植1回あたりの妊娠の可能性は、すべての人で同じではないからです。
たとえば、
- 女性の年齢
- 卵子の年齢
- 胚の発育段階
- 胚の形態
- 胚の染色体の状態
- 子宮の状態
- これまでの妊娠歴
- これまでの移植経過
などによって変わります。
同じ「2回胚移植をして陰性」という結果でも、その意味は人によって異なります。
だからこそ現在は、
回数だけを見るのではなく、「その人にとってどのくらい妊娠が期待される状況だったのか」を含めて考える
ことが重要になっています。
一番大きな要素の一つは「胚側」です
着床しないと、
「子宮内膜が悪かったのかな」
「血流が悪かったのかな」
と女性側の身体に原因を探してしまいがちです。
しかし、忘れてはいけないのが胚側の要因です。
胚は見た目のグレードが良好でも、染色体まで正常とは限りません。
特に女性の年齢が上がるにつれて、卵子由来の染色体異常を持つ胚の割合は増加します。
そのため、
良好胚を移植した=必ず着床できる胚だった
ということではありません。
移植がうまくいかなかったときに、
「私の子宮が受け入れられなかった」
と自分の身体だけを責めないでください。
子宮の中に確認したいものがないか
一方で、子宮側に確認した方がよいこともあります。
たとえば、
- 子宮内膜ポリープ
- 粘膜下子宮筋腫
- 子宮内癒着
- 子宮の形の異常
などです。
通常の経腟超音波検査で疑われる場合には、必要に応じて子宮鏡検査などが検討されることがあります。
ただし、
「胚移植が失敗したら、とりあえず全員子宮鏡」
という意味ではありません。
これまでの検査結果や超音波所見、移植回数などを確認したうえで、必要性を主治医と相談します。
子宮内膜の厚さも再確認することがあります
胚移植周期では、子宮内膜の厚さを測定します。
極端に薄い状態が続く場合には、
- ホルモン補充方法
- 使用している薬
- 子宮内癒着の有無
などを再確認することがあります。
ただし、
「○mmなければ絶対に着床しない」
という境界線があるわけではありません。
内膜の厚さだけで妊娠する・しないを判断しないことも大切です。
慢性子宮内膜炎を調べることもあります
反復して胚移植がうまくいかない方では、
慢性子宮内膜炎
について調べる場合があります。
慢性子宮内膜炎は、子宮内膜に持続的な炎症がみられる状態です。
自覚症状がほとんどないこともあります。
ESHREの現在の推奨では、反復着床不全が疑われる場合、
慢性子宮内膜炎の評価を検討することは可能
とされています。
ただし、検査方法や診断基準にはまだ課題があり、
「移植が失敗したら全員検査する」
というものではありません。
どの段階で調べるかは、それまでの治療歴を踏まえて相談しましょう。
「着床の窓」は全員調べた方がいいの?
「着床不全」と検索すると、
着床の窓
という言葉を目にすることがあります。
子宮内膜が胚を受け入れやすい時期を調べ、胚移植のタイミングを個別に調整することを目的とした子宮内膜受容能検査(ERA検査など)もあります。
しかし現在のところ、ESHREは、
市販されている子宮内膜受容能検査を反復着床不全の方全員にルーチンで行うだけの十分な根拠はない
としています。
検査そのものを否定するということではありません。
大切なのは、
「着床しなかったから、とりあえず検査を増やす」
のではなく、
「この検査で何を調べるのか」
「結果によって次の治療がどう変わるのか」
まで確認することです。
免疫検査も「たくさん調べれば安心」とは限りません
着床について検索すると、
- NK細胞
- Th1/Th2
- HLA
- 免疫異常
などの言葉が出てくることがあります。
免疫は着床や妊娠維持に関係する重要な仕組みです。
しかし、
「免疫を詳しく調べれば、着床しない理由がすべて分かる」
わけではありません。
ESHREでは現在、末梢血・子宮内膜のNK細胞検査などについて、反復着床不全に対してルーチンに行うことを推奨していません。
一方、既往歴などによっては抗リン脂質抗体など別の評価が検討されることもあります。
検査は「多いほど安心」ではなく、
今の自分に本当に必要なのか
を主治医と相談することが大切です。
「何か検査を追加しなければ」と焦らなくて大丈夫
胚移植が陰性だった直後は、
「次は何を調べればいい?」
「何か治療を追加した方がいい?」
と、すぐに次の行動を探したくなることがあります。
その気持ちはとても自然です。
ただし、まず整理したいのは、
- これまで何回移植したか
- どの段階の胚だったか
- 胚の評価はどうだったか
- 内膜の状態はどうだったか
- 子宮内の検査をしたことがあるか
- 甲状腺など基本的な検査結果
- これまで妊娠反応が出たことがあるか
といったこれまでの治療経過です。
そのうえで、
「次の移植を進めるのか」
「追加検査を考えるのか」
を相談します。
自然妊娠や人工授精で妊娠しないことを「反復着床不全」とは呼びません
ここも大切なポイントです。
反復着床不全という言葉は、基本的に体外受精・顕微授精などで胚移植を行った場合に使われる概念です。
タイミング法や人工授精で妊娠に至らない場合、
「きっと着床できていない」
とは判断できません。
そもそも、
- 卵子と精子が出会ったか
- 受精したか
- 胚が発育したか
- 子宮まで到達したか
を確認できないからです。
妊娠に至らない理由をすべて「着床」に結びつけないことも大切です。
「排卵しているのに妊娠につながらないとき」に確認したいことは、こちらの記事で詳しく解説しています。
東洋医学では「着床不全」という病名だけでは見ません
東洋医学では、
「着床不全だからこのツボ」
という施術は行いません。
同じように胚移植を経験している方でも、
- 月経痛が強い
- 手足が冷える
- 胃腸が弱い
- 睡眠が浅い
- 採卵後から疲れが抜けない
- 首や肩が強くこわばっている
- 不安が続いて食欲が落ちている
など、身体の状態は一人ひとり違うからです。
東洋医学では、こうした状態を、
腎虚(じんきょ)
疲労が強く、身体を支える力が低下していると考える状態。
肝鬱気滞(かんうつきたい)
緊張やストレスが続き、気の巡りが滞っていると考える状態。
脾虚(ひきょ)
食欲低下、軟便、胃もたれなど、胃腸の働きが弱っている状態。
血虚(けっきょ)
疲れやすさ、乾燥、立ちくらみなど、「血」が不足していると考える状態。
瘀血(おけつ)
月経痛や経血の塊など、「血」の巡りが滞っていると考える状態。
などから総合的に見ていきます。
ただし、
これらの東洋医学的な体質が「着床不全の原因」という意味ではありません。
あくまで、今の身体のコンディションを整理するための見方です。
では、着床が不安なときに鍼灸を受ける意味は?
ここは誤解されやすいところです。
鍼灸によって、
「胚を着床させる」
「着床不全を治す」
と断定することはできません。
IVFと鍼灸については、臨床妊娠率などの改善を示した研究がある一方、研究方法や比較対象によって結果が異なり、出生率まで含めた確実な効果についてはまだ結論が一致していません。
それでも、妊活中に鍼灸を取り入れる意味はあります。
胚移植を繰り返している女性では、
- ホルモン治療による身体の変化
- 通院による疲労
- 睡眠不足
- 胃腸の不調
- 首肩や背中の緊張
- 冷えやのぼせ
- 判定日への不安
などが重なっていることがあります。
鍼灸では、「着床だけ」を狙うのではなく、治療を受けている身体全体のコンディションを確認しながら整えていくことができます。
これが、妊活中に鍼灸を取り入れる大きなメリットの一つです。
「移植の日だけ鍼灸」ではなく、その前から身体を見る
着床が心配になると、
「移植当日に鍼灸をした方がいいですか?」
と質問されることがあります。
しかし当院では、移植当日の一回だけを特別視しているわけではありません。
たとえば、
採卵後に疲れが残っている。
ホルモン補充周期になって眠りが浅い。
胃腸の調子が落ちている。
月経後から冷えが強くなっている。
移植が近づくにつれて身体に力が入っている。
こうした状態は、移植当日だけ見ても分からないことがあります。
だからこそ、
胚移植までの経過を見ながら、その時々の身体を整えていく
ことを大切にしています。
蓮心はり灸堂では、検査結果だけではなく「治療の流れ」を見ます
蓮心はり灸堂では、
「着床不全と言われたから、この施術」
という対応はしていません。
まず、
- これまでの採卵回数
- 胚の発育状況
- 胚移植の回数
- 自然周期かホルモン補充周期か
- 子宮内膜の状態
- 今後の移植予定
- 現在使用している薬
など、治療の流れを確認します。
そのうえで、
- 睡眠
- 胃腸
- 冷えやのぼせ
- 月経
- 疲労
- 首肩の緊張
- ストレス
なども合わせて見ます。
たとえば同じ「次の移植に向けて身体を整えたい」という方でも、
採卵直後で疲労が強い方と、移植直前で緊張が強い方では、身体への向き合い方は同じではありません。
不妊治療の予定と身体の状態を切り離さずに考えること。
そこが、当院が妊活鍼灸で大切にしている部分です。
今日、主治医に確認したい3つ
着床不全が気になっている方は、検査名をたくさん覚えるより、まず次の3つを聞いてみてください。
1.私は今「反復着床不全」を考える段階ですか?
移植回数だけで自己判断せず、
「これまでの年齢・胚・移植歴を考えると、追加検査を考える段階でしょうか?」
と聞いてみましょう。
2.追加検査をすると、次の治療はどう変わりますか?
検査を提案された場合は、
「異常があったら、どのように治療が変わりますか?」
まで確認します。
検査そのものではなく、検査結果をどう生かすかが重要です。
3.次の移植までに見直すことはありますか?
子宮内膜、薬、生活習慣など、現時点で見直した方がよいものがあるか確認します。
医療的に確認することと、自分で身体を整えることを分けて考えると、情報に振り回されにくくなります。
「着床しなかったのは私の身体が悪いから」と考えないでください
良好胚を移植した。
薬も忘れなかった。
身体を冷やさないようにした。
仕事も無理しなかった。
それでも判定が陰性だった。
そんなとき、
「もっと何かできたのでは」
と思ってしまうことがあります。
でも、胚移植の結果をあなたの生活だけでコントロールすることはできません。
冷たいものを飲んだから。
歩きすぎたから。
仕事をしたから。
ストレスを感じたから。
それだけを理由に、
「私が着床を邪魔した」
と考えないでください。
必要な医学的評価は医療機関で行い、
身体の疲れや睡眠、胃腸、緊張など、自分で整えにくくなっている部分には別のサポートを取り入れる。
そのように役割を分けて考えてみてください。
このテーマの続きは、**9月9日21:00公開予定「着床不全が不安な人の体質改善の考え方」**で、
「体質改善とは、着床させるために何か特別なことをすることなのか?」
というところから、もう少し詳しくお話しします。
次の胚移植に向けて、身体も整えておきたい方へ
「次も着床しなかったらどうしよう」
そう考えるほど、
食事、サプリメント、温活、運動など、何か新しいことを追加したくなるかもしれません。
でも、必要なのは必ずしも「もっと頑張ること」ではありません。
今の身体が、
疲れているのか。
緊張しているのか。
眠れていないのか。
胃腸が弱っているのか。
まず整理することも大切です。
蓮心はり灸堂では、採卵・胚移植などの治療予定を確認しながら、睡眠、胃腸、月経、冷え、疲労、ストレスまで含めて、その時期の身体に必要な施術を考えています。
「着床のために何をすればいいか分からなくなってきた」
という段階でもご相談ください。
治療を変える場所ではなく、治療を続けている身体を一緒に整えていく場所として、鍼灸を取り入れる方法があります。
参考・出典
欧州生殖医学会(ESHRE)「反復着床不全に関するGood Practice Recommendations」
日本生殖医学会「生殖医療ガイドライン2025」
Journal of Integrative and Complementary Medicine「IVF・胚移植における鍼灸の実施時期・回数と妊娠転帰に関するシステマティックレビュー・メタ解析」
Chinese Journal of Integrative Medicine「IVFにおける鍼灸の妊娠転帰に関するシステマティックレビュー・メタ解析」

