「良好胚を移植したのに妊娠しなかった」
「何回か移植しているのに結果が出ない」
「私の身体が、胚を受け入れられない体質なの?」
胚移植がうまくいかない周期が続くと、
「自分の身体に何か問題があるのではないか」
という気持ちが強くなることがあります。
そして、
身体を温める。
食事を変える。
サプリメントを増やす。
運動する。
鍼灸へ通う。
「できることは全部しなければ」
という気持ちになる方も少なくありません。
9月3日の記事
「着床不全って何を指すの?」
では、反復着床不全には世界共通の単純な定義があるわけではなく、年齢や移植した胚、これまでの治療歴などを含めて個別に考える必要があることをお話ししました。
今回はその続きとして、
「体質改善をどう考えればよいのか」
を整理します。
最初に結論をお伝えすると、
「着床不全=体質が悪い」と考える必要はありません。
そして、
体質改善だけで着床不全を治せる、と考えるものでもありません。
必要な医学的評価は医療機関で行いながら、
睡眠。
胃腸。
冷えやのぼせ。
疲労。
月経。
身体の緊張。
など、治療を続ける身体のコンディションを整えていく。
この二つを分けずに考えることが大切です。
まず「私の子宮が悪い」と決めつけないでください
胚移植をして妊娠しなかったとき、
「子宮が受け入れなかった」
という表現を聞くことがあります。
すると、
「私の子宮に問題があるんだ」
と感じてしまうかもしれません。
しかし、着床には、
- 胚側の要因
- 子宮・子宮内膜側の要因
- 年齢
- 移植条件
- さまざまな偶発的な要素
が関係しています。
特に、胚の染色体の状態は着床や妊娠継続に大きく関係します。
そのため、
胚移植がうまくいかなかった=子宮や体質に原因がある
とは言えません。
また、
一度や二度妊娠しなかったという結果だけで、
「着床できない身体」
と決めつける必要もありません。
反復着床不全は「○回失敗したら全員同じ病気」ではありません
以前は、
「良好胚を3回以上移植しても妊娠しない」
など、回数を中心に反復着床不全を定義する考え方が多く使われてきました。
しかし現在は、
年齢や胚の条件などによって、本来予想される着床可能性が違う
ことが重視されています。
欧州生殖医学会(ESHRE)も、
単純に「何回失敗したから反復着床不全」と全員を同じように扱うのではなく、
その方の治療歴に応じて個別に評価する
考え方を示しています。
つまり、
「2回だめだったから、私も重い着床障害」
とインターネット上の回数だけで判断する必要はありません。
主治医に、
「これまでの胚移植歴を踏まえると、追加で確認した方がよいことはありますか?」
と聞いてみるのがおすすめです。
体質改善の前に、医学的に確認することがあります
着床不全が疑われる場合には、状況に応じて医療機関で確認される項目があります。
たとえば、
子宮の中の状態
- 子宮内膜ポリープ
- 粘膜下筋腫
- 子宮腔の形態異常
- 子宮内癒着
などがないかを確認します。
経腟超音波だけで判断しにくい場合には、子宮鏡検査などが検討されることがあります。
子宮内膜
子宮内膜の厚さや状態を確認します。
また、状況によっては慢性子宮内膜炎について検討される場合もあります。
ただし、すべての方に同じ検査が必要というわけではありません。
胚の条件
胚の発育状況やグレード、年齢なども重要な情報です。
必要に応じてPGT-Aについて説明を受ける場合もありますが、すべての反復着床不全の方に行う検査ではありません。
その他の医学的な背景
甲状腺機能や既往歴など、個々の状況に応じて追加評価が検討されることがあります。
大切なのは、
「体質改善すれば全部解決する」と考える前に、医学的に確認できることを整理すること
です。
「検査を増やせば必ず原因が見つかる」とも限りません
着床不全が不安になると、
「調べられる検査は全部やりたい」
と思うことがあります。
しかし、反復着床不全の分野には、
- ある程度検討できる検査
- 特定の場合に考慮する検査
- 現時点ではルーチンに推奨されていない検査
があります。
たとえば、
子宮内膜受容能を調べる一部の検査や、
NK細胞など一部の免疫学的検査については、
現時点ではすべての反復着床不全の方にルーチンで行うことを支持する十分な根拠はありません。
だから、
「受けていない検査がある=治療が足りない」
というわけではありません。
検査を提案されたら、
「この検査で何が分かりますか?」
「結果によって治療は変わりますか?」
と確認してみましょう。
では「体質改善」には意味がないのでしょうか?
いいえ。
ここは、医学的な治療と身体づくりの役割を分けて考えると分かりやすくなります。
体質改善によって、
染色体正常胚を必ず着床させる
ことはできません。
子宮内膜ポリープがある場合に、
食事や鍼灸だけでポリープをなくす
というものでもありません。
一方で、不妊治療が続く中で、
- 睡眠が浅い
- 胃腸の調子が悪い
- 便秘や下痢が続く
- 身体の冷えがつらい
- 首肩がこわばる
- 疲労が抜けない
- 月経痛が強い
- 治療のことを考えると緊張する
という身体の状態を、そのままにする必要もありません。
ここを整えていくことが、
当院で考える妊活中の体質改善です。
体質改善は「着床できる身体に変えること」ではありません
「体質改善」という言葉から、
悪い身体
↓
良い身体
↓
着床できる身体
というイメージを持つ方もいると思います。
しかし実際には、そのように単純ではありません。
蓮心はり灸堂でいう体質改善は、
妊娠できない身体を、妊娠できる身体へ変える
という意味ではありません。
今、
眠れていない。
食べられていない。
胃腸が弱っている。
身体が緊張している。
疲れが抜けていない。
冷えとのぼせが混在している。
そうした一人ひとりの状態を確認して、
今よりも身体が過ごしやすい状態へ近づけていくこと
を指しています。
結果だけではなく、
治療を続ける身体そのものを大切にするための身体づくりです。
東洋医学では「着床不全」という病名だけで施術を決めません
東洋医学では、
「着床不全の人には、このツボ」
という考え方はしません。
同じように胚移植がうまくいかなかった方でも、身体の状態は違います。
腎虚(じんきょ)|疲れや冷えが強い
- 疲れが抜けない
- 腰がだるい
- 手足が冷える
- 夜になるとぐったりする
- 治療が続き身体が消耗している
といった状態です。
東洋医学では、生殖や加齢とも関係する「腎」の働きが弱っている状態として考えることがあります。
ただし、
腎虚だから着床しなかった
という意味ではありません。
肝鬱気滞(かんうつきたい)|緊張が続いている
- 首肩がこる
- 胸やお腹が張る
- ため息が増える
- 寝つきが悪い
- 判定日が近づくほど身体に力が入る
といった方です。
こうした場合は、身体を温めることばかりではなく、
まず緊張をゆるめる
ことを優先する場合があります。
脾虚(ひきょ)|胃腸が弱っている
- 食欲がない
- 軟便
- 胃もたれ
- むくみ
- 疲れやすい
などがある方です。
妊活に良いものを食べようと頑張っても、
胃腸が受け取れていない場合があります。
そのような方では、
食事を増やす前に胃腸を整える
という考え方をします。
血虚(けっきょ)|疲れ・眠りの浅さが目立つ
- 疲れやすい
- 眠りが浅い
- 夢が多い
- 立ちくらみ
- 肌の乾燥
などが重なることがあります。
この場合も、
「血虚だから内膜が薄い」
「血虚だから着床できない」
と医学的な状態へそのまま置き換えるものではありません。
瘀血(おけつ)|月経痛などが目立つ
- 月経痛が強い
- 経血の塊が多い
- 下腹部痛
- 慢性的な肩こり
などから、東洋医学では「血」の巡りの滞りを考えることがあります。
ただし、
瘀血=子宮の血流が悪い=着床不全
と単純には結びつけません。
東洋医学の体質は、
着床不全の原因を診断するためではなく、今の身体の負担を整理するため
に使います。
妊活中の「冷え」は、少し慎重に考えましょう
着床不全について調べると、
「子宮が冷えている」
「血流が悪いと着床しない」
という情報を目にすることがあります。
そして、
腹巻き。
カイロ。
よもぎ蒸し。
長風呂。
温かい飲みもの。
と、温めることをどんどん増やす方もいます。
しかし、
身体を温めれば着床率が上がると確立されているわけではありません。
また、
足は冷えるけれど顔はのぼせる。
寝汗をかく。
薬を使っていて身体がほてる。
という方もいます。
その場合、
「冷え=とにかく温める」
では身体がつらくなることもあります。
冷えは、
妊娠できる・できないを判定するサインではなく、身体全体を見るための一つの症状
として考えてください。
食事も「着床に良いもの」を探しすぎない
パイナップル。
ザクロ。
アボカド。
ナッツ。
特定の飲みもの。
「着床に良い」と紹介される食品はたくさんあります。
でも、
特定の食品を食べることで胚が着床するという十分な医学的根拠はありません。
大切なのは、
特殊な妊活食を作ることより、
食事が大きく乱れていないこと。
必要な栄養を偏りすぎず摂れていること。
そして、
身体が無理なく食べられていること
です。
食事に気をつけることは大切ですが、
一食の内容を見て、
「これを食べたから今回だめだった」
と自分を責める必要はありません。
まず整えたい3つは「睡眠・胃腸・緊張」
何から始めればよいか分からない方は、まず3つを確認してみてください。
1.睡眠
- 寝つきが悪くないか
- 夜中に何度も目が覚めないか
- 朝から疲れていないか
- 判定日が近づくと眠れなくなっていないか
2.胃腸
- 食欲はあるか
- 胃もたれしていないか
- 便秘や下痢が続いていないか
- サプリメントを増やしすぎていないか
3.身体の緊張
- 首肩がずっとこっていないか
- 顎に力が入っていないか
- 呼吸が浅くなっていないか
- お腹まで力が入っていないか
全部を一度に改善する必要はありません。
今、最もつらいものを一つ整える。
そこからで十分です。
胚移植前だから、生活を完璧にしなくても大丈夫です
移植日が決まると、
「失敗しないようにしなければ」
という緊張が強くなることがあります。
早く寝る。
食事を整える。
カフェインを控える。
運動する。
温める。
サプリを忘れない。
もちろん、健康的な生活を意識することはよいことです。
でも、
胚移植前の数週間を完璧に過ごした人だけが妊娠するわけではありません。
仕事が忙しい日もある。
眠れない日もある。
お菓子を食べる日もある。
そんな一日を、
「着床に悪いことをしてしまった」
と評価しないでください。
身体づくりは、
結果を自分の行動だけでコントロールするためにするものではありません。
鍼灸で「着床率を上げられる」と言い切れる?
現在、鍼灸と生殖補助医療については多くの研究があります。
2026年には、反復着床不全の方を対象にしたランダム化比較試験のメタ解析で、鍼灸併用群の臨床妊娠率や生児獲得率などが高かったという報告も出ています。
一方で、評価は慎重にする必要があります。
胚移植日に鍼灸を行った研究をまとめた2025年の別のメタ解析では、
鍼灸を行わなかった群との比較では臨床妊娠率に差がみられたものの、
ツボから外して浅く刺す「偽鍼(ぎしん)」との比較では明確な差がなく、生児獲得率にも有意な改善は確認されませんでした。
研究によって、
- 対象となる患者さん
- 鍼灸の方法
- 施術回数
- 施術時期
- 比較するグループ
が大きく違います。
そのため、
「着床不全には鍼灸をすれば妊娠率が○%上がる」
と患者さんへ説明できるほど、結論が確立しているわけではありません。
当院でも、
「鍼灸をすれば胚が着床する」
とはお伝えしていません。
それでも胚移植前に鍼灸を取り入れる意味
では、なぜ妊活中に鍼灸を取り入れるのでしょうか。
そのメリットの一つは、
胚移植だけを見るのではなく、そこへ向かう身体全体を確認できること
です。
たとえば、
移植前なのに眠れていない。
薬を飲み始めて胃腸がつらい。
便秘になった。
仕事が忙しく首肩がこわばっている。
冷えとのぼせが混在している。
判定日を考えるだけで身体に力が入る。
こうした部分は、
胚のグレードや子宮内膜の厚さだけでは見えません。
鍼灸では、
治療を邪魔せず、その時期の身体にある負担を一つずつ整理していく
というサポートができます。
妊娠させるためだけではなく、
次の胚移植を、今より少し身体に余裕を持った状態で迎えるため
に利用する。
それが当院で考える妊活鍼灸の役割です。
蓮心はり灸堂では「移植前だから同じ施術」にはしません
同じ胚移植前でも、身体の状態は一人ひとり違います。
自然周期移植なのか。
ホルモン補充周期なのか。
何回目の移植なのか。
採卵から続けて治療しているのか。
一周期休んでいるのか。
その背景でも身体への負担は変わります。
蓮心はり灸堂では、
- これまでの胚移植歴
- 現在の治療周期
- 胚移植予定日
- 使用している薬
- 子宮内膜の状態
- 医療機関での検査内容
を確認したうえで、
- 睡眠
- 胃腸
- 便通
- 月経
- 冷え・のぼせ
- 首肩の緊張
- 疲労
- 不安
まで合わせて身体を見ます。
そのため、
「胚移植前だから、このツボを使う」
だけの施術ではありません。
今の身体で何が一番負担になっているのか。
今は積極的に整える時期なのか。
少し休ませる方がよいのか。
治療の予定と身体の状態を合わせながら考えます。
ここが、妊活・不妊治療に合わせた施術を受けるメリットの一つです。
「何か追加しなければ」ではなく「何を減らせるか」も考える
着床不全が不安になるほど、
身体づくりは足し算になりやすくなります。
サプリ。
温活。
運動。
食事法。
ハーブ。
鍼灸。
全部やらなければ。
でも、治療が続いて疲れている方には、
引き算が必要なこともあります。
夜の検索をやめる。
身体に合わない温活をやめる。
大量のサプリメントを一度整理する。
予定を一つ減らす。
早めに寝る。
身体づくりとは、
新しいことを始めるだけではありません。
今の身体に必要のない負担を減らすことも体質改善です。
「着床する身体」をつくるのではなく、「治療を続けられる身体」を整える
結果が出ないと、
「着床できる身体にしなければ」
と思います。
でも、
着床は自分の努力だけではコントロールできません。
だから体質改善の目標も、
「次こそ必ず着床させる」
ではなく、
「睡眠を戻したい」
「胃腸を整えたい」
「身体の緊張を減らしたい」
「疲労を持ち越さないようにしたい」
のように、身体の状態へ戻してみてください。
その方が、
できた・できなかったを自分で確認できます。
そして何より、
妊娠結果によって自分の身体づくりまで「失敗」にしなくて済みます。
体質改善を始める前に、3つだけ整理してみましょう
1.病院で次に確認することは何?
子宮鏡?
子宮内膜?
胚について?
まず医学的に確認する部分を整理します。
2.今、一番つらい身体の症状は?
冷え。
胃腸。
睡眠。
疲労。
首肩。
全部ではなく、一番困っているものを考えてみます。
3.今やっているセルフケアは負担になっていない?
「妊活のためだから」
と我慢して続けているものがないか、確認してみてください。
この3つを整理するだけでも、
「とにかく何かしなければ」
という状態から少し離れられます。
着床不全への不安を、一人で身体の責任にしないために
胚移植を繰り返していると、
結果が出なかった理由を、
自分の子宮。
自分の冷え。
自分の食事。
自分のストレス。
へ向けてしまうことがあります。
でも、
着床はそれほど単純なものではありません。
必要な検査は医療機関で確認する。
治療については主治医と相談する。
そして、
治療を続ける身体が疲れているなら、その部分を整える。
蓮心はり灸堂では、この役割を分けながら妊活をサポートしています。
「私の体質が悪いから着床しないのでは?」
という不安からでもご相談いただいて大丈夫です。
身体を責めるために体質を見るのではなく、
今の身体を少し楽にし、次の治療へ向かいやすい状態を一緒につくる。
それが当院で大切にしている体質改善です。
参考・出典
欧州生殖医学会(ESHRE)「反復着床不全に関するGood Practice Recommendations」
日本生殖医学会「生殖医療ガイドライン2025」
Frontiers in Reproductive Health「胚移植時の鍼灸と臨床妊娠・生児獲得に関するシステマティックレビュー・メタ解析」
「反復着床不全に対する鍼灸の有効性に関するランダム化比較試験のシステマティックレビュー・メタ解析」

