「今周期は移植を見送りましょう」
主治医からそう言われたとき、
身体を休められる安心より先に、
「一か月、無駄になってしまう」
と思ってしまう方がいます。
年齢のこと。
凍結している胚のこと。
これまでかかった時間。
次の誕生日。
いろいろ考えるほど、
一周期がとても長く感じますよね。
でも、胚移植を行わない周期は、
何もしない周期とは限りません。
必要な検査をする。
治療方針を確認する。
採卵や薬で疲れていた身体を整える。
睡眠や胃腸を立て直す。
次の移植へ向けて、自分の身体を確認する。
できることはあります。
今日は、
「休む周期をどう過ごせばいい?」
という不安を、一つずつ整理していきます。
まず、「休めば妊娠しやすくなる」とは限りません
ここは最初に整理しておきましょう。
胚移植を一周期休めば、
子宮がリセットされる。
卵巣を休ませれば、
次の胚移植の妊娠率が上がる。
と単純に考えることはできません。
凍結融解胚移植(FET)をすぐ行った場合と、一周期以上延期した場合を比較したシステマティックレビュー・メタ解析では、延期することによる出生率・臨床妊娠率・妊娠喪失率の明確な優位性は認められていません。
つまり、
医学的な理由がなければ、全員が必ず一周期休まなければならないわけではありません。
移植できる状態であれば、次周期から進める場合もあります。
だからこそ、
「休んだ方がいいらしい」
という情報だけで自己判断するのではなく、
自分の場合は、
なぜ今回は移植をしないのか
を主治医と確認しておくことが大切です。
では、なぜ胚移植を休むことがあるのでしょうか
理由は一人ひとり違います。
たとえば、
- 採卵後で卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクがある
- 子宮内膜や子宮内に確認したいことがある
- ポリープなどへの検査・治療を行う
- ホルモン値や身体の状態を確認する
- 感染症やほかの病気の治療を優先する
- 主治医と治療計画を組み直す
- ご本人の体調や事情を考えて一周期見送る
などがあります。
特に採卵で卵巣が強く反応している場合には、安全性を優先して胚を凍結し、新鮮胚移植を行わない方法が選択されることがあります。
ESHREの2025年卵巣刺激ガイドラインでも、OHSSのリスクを減らす目的で、リスクの高い方には全胚凍結を含む方法が推奨されています。
日本生殖医学会も、胚を凍結することでOHSSの悪化を避けながら、移植に適した周期を選択できることを説明しています。
ですから、
「移植できなかった」ではなく、安全に次へ進むために「今は移植しない」という判断
の場合もあるのです。
「今月できない」と「後退した」は同じではありません
妊活が長くなっている方ほど、
治療が一つ進まないだけで、
「後ろに戻った」
ように感じることがあります。
でも、
凍結胚がなくなったわけではない。
これまでの治療が消えるわけでもない。
そして、
身体の状態を確認してから移植することも、
治療の一部です。
予定どおり進むことだけが「前へ進む」ではありません。
安全に移植できる状態を確認し、必要な治療を済ませ、次の計画を整えることも、次へ進むための大切な一歩です。
年齢が気になると、一周期休むことが怖くなる
「もう38歳だから」
「40歳が近いから」
「一か月も無駄にしたくない」
そう思う方もいるでしょう。
その気持ちは自然です。
年齢は妊活において大切な医学的情報ですから、
「気にしなくていい」
とは言えません。
ただ、
時間を大切にすることと、必要な一周期まで無理に進むことは同じではありません。
なぜ延期するのか。
次はいつ移植できるのか。
その間に必要な検査はあるのか。
ここを主治医に確認できれば、
漠然とした「一か月の損失」ではなく、
次へ向けた具体的な時間
として考えやすくなります。
年齢への焦りそのものが苦しくなっている方は、昨日の記事
「年齢のことを考えると苦しくなるあなたへ」
もあわせて読んでみてください。
休む周期にまず確認したいのは「次の予定」
何か特別な健康法を始める前に、
まず次の治療を整理しましょう。
確認したいのは、
- 次の受診日はいつか
- 次の月経が来たら連絡するのか
- 自然周期かホルモン補充周期か
- 検査や処置を予定しているか
- 薬を続けるのか、中止するのか
- 次の胚移植のおおよその時期
です。
ここが分からないままだと、
「今、何をしていいの?」
という不安が大きくなります。
反対に、
次の予定が見えているだけで、
休む周期の過ごし方も考えやすくなります。
薬は自己判断で止めたり始めたりしない
「今月は移植しないから、薬も全部いらないかな」
と思うことがあるかもしれません。
でも、薬によって目的は違います。
不妊治療以外の病気の治療として続けている薬もありますし、次の治療へ向けて指示されているものもあります。
サプリメントや漢方も同じです。
移植を休むことになったら、
「今飲んでいるものの中で、継続するものはどれですか?」
と主治医や担当医へ確認しておくと安心です。
自己判断で増やしたり減らしたりせず、
次の治療予定と合わせて整理しましょう。
子宮について確認する周期になることもあります
胚移植を休む理由によっては、
子宮の状態を詳しく確認することがあります。
超音波検査。
子宮鏡検査。
必要に応じた子宮内の治療。
などです。
特に子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、子宮腔内癒着などが疑われる場合には、主治医から子宮鏡検査を提案されることがあります。
「子宮鏡では何を見るの?」
と気になる方は、9月14日の
「子宮鏡検査で何がわかる?」
で詳しく解説しています。
すべての方に追加検査が必要なわけではありません。
今の自分に必要な検査だけを受けること
が大切です。
休む周期だからこそ「治療以外の身体」を見てみる
採卵。
受精確認。
胚盤胞。
胚移植。
判定日。
治療が続いていると、
どうしても生殖に関する数字へ意識が集中します。
でも身体には、
それ以外の状態もあります。
最近、
眠れていますか。
食事は取れていますか。
胃腸の調子はどうですか。
月経痛は強くありませんか。
首肩はずっとこっていませんか。
疲れが抜けないままになっていませんか。
休む周期は、
治療成績の数字ではなく、自分の身体を見直す時間
にもできます。
食事は「着床する食べもの」を探さなくて大丈夫
胚移植が延期になると、
「次こそは」
という気持ちから、
食事を大きく変えたくなることがあります。
○○を食べる。
○○は食べない。
着床にいい食材を探す。
でも、
特定の食材一つで着床が決まるわけではありません。
まず大切なのは、
食事を抜きすぎない。
極端な制限をしない。
主食、主菜、副菜を無理のない範囲でそろえる。
そして胃腸の調子に合わせて食べることです。
「妊活にいいものを食べなければ」
より、
今の身体がきちんと食べられる状態をつくる。
そこからで十分です。
葉酸は「移植周期だけ」のものではありません
妊娠を希望している方にとって、
葉酸は移植直前だけ意識する栄養素ではありません。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、妊娠を計画している女性や妊娠の可能性がある女性に対し、神経管閉鎖障害のリスク低減のため、通常の食事に加えて1日400μgの葉酸を通常の食品以外から摂取することが推奨されています。
休む周期だから、
葉酸まで休む。
という考え方ではありません。
ただし、複数のサプリメントを使っている場合には成分が重複することがあります。
量を増やせば増やすほどよいわけではないため、現在使っているものを一度確認しておきましょう。
運動も「妊活のための特訓」にしなくていい
休む周期になると、
「運動しなきゃ」
と急に頑張る方もいます。
でも、
これまでほとんど運動していなかった方が、
急に毎日激しい運動を始める必要はありません。
散歩する。
少し長く歩く。
身体を伸ばす。
座りっぱなしを減らす。
自分が続けやすいもので構いません。
WHOの2025年不妊症ガイドラインでも、妊娠を希望する人への生活支援として、健康的な食生活、身体活動、禁煙などの基本的な生活習慣を大切にしています。
身体づくりは、
一周期だけ完璧にするものではありません。
次の周期にも続けられることを選ぶ
くらいがちょうどいいと思います。
睡眠を「卵子のため」と考えすぎない
「22時までに寝ないと」
「7時間以上寝ないと」
と、睡眠まで妊活の課題にすると、
眠れない夜にさらに焦ってしまいます。
休む周期だからこそ、
何時に寝たかを採点するより、
寝る前のスマートフォンを少し早めに置く。
入浴後に少しゆっくり過ごす。
起きる時間を大きく乱さない。
など、
眠りやすい環境を少しずつ作る
ことから始めてください。
妊活では十分頑張っています。
睡眠まで「できた・できない」の評価項目にしなくて大丈夫です。
東洋医学では「休む周期=何もしない」とは考えません
東洋医学では、
今出ている身体の状態を確認します。
肝鬱気滞(かんうつきたい)|緊張や焦りで身体が張る
首肩のこり、ため息、胸やお腹の張り、月経前の不調などが重なる状態です。
脾虚(ひきょ)|治療が続き、胃腸まで疲れている
食欲低下、胃もたれ、軟便、身体のだるさなどがみられる状態です。
血虚(けっきょ)|疲れや眠りの浅さが目立つ
疲れやすい、眠りが浅い、立ちくらみなどが重なる状態です。
瘀血(おけつ)|痛みやこわばりが続く
月経痛、同じ場所に続く痛みやこりなどを合わせて考えます。
これは、
「この体質だから着床しない」
と判断するためのものではありません。
今、どこから身体を整えていくと過ごしやすくなるのかを見るための考え方
です。
実は、休む周期は鍼灸を始めやすい時期でもあります
胚移植直前になると、
通院。
薬。
採血。
超音波検査。
仕事の調整。
と予定が増えてきます。
一方、胚移植を行わない周期は、
次の移植日だけを意識するのではなく、
身体そのものを少し丁寧に見やすい時期
でもあります。
たとえば、
採卵後から疲れが抜けていない。
月経が来るたびに身体が重い。
胃腸の調子が落ちている。
夜になると考えすぎて眠れない。
首肩や背中にずっと力が入っている。
こうした状態を確認しながら、鍼灸を組み立てることができます。
次の移植直前だけではなく、その前から身体を見ておく
「胚移植の前日に鍼灸をした方がいいですか?」
という相談を受けることがあります。
でも当院では、
移植当日だけを点で見るより、
その方が次の胚移植までをどんな身体で過ごしているか
も大切にしています。
休む周期から施術を始めると、
月経の状態。
睡眠。
胃腸。
冷え・のぼせ。
疲労。
首肩・背中の緊張。
などを確認しながら、次周期へ向けて身体を整えていくことができます。
「移植直前だから急いで何かする」
ではなく、
少し余裕のある時期から自分の身体を見ておく。
これは鍼灸を取り入れるメリットの一つです。
蓮心はり灸堂では「今周期は移植しない」で終わりません
休む理由によって、
身体づくりの考え方も変わります。
採卵後で卵巣を休ませている方。
子宮鏡検査を予定している方。
ポリープなどの治療後で次周期を待っている方。
主治医と今後の治療方針を相談している方。
一度治療から離れて身体を休ませている方。
同じ「休む周期」ではありません。
当院では、
- なぜ今周期は胚移植を行わないのか
- 次の受診予定
- 次の採卵・胚移植予定
- 現在使用している薬
- これまでの治療歴
を確認します。
そして、
睡眠、胃腸、月経、冷え・のぼせ、首肩の緊張、疲労など、その時期の身体を一緒に見ていきます。
医療機関で進める治療と、日々の身体づくりを切り離さない。
そこを大切にしています。
休む周期に今日からするなら、この3つ
1.「なぜ休むのか」を確認する
医学的な理由なのか。
検査や治療を予定しているのか。
ご自身の希望で一周期見送るのか。
理由が分かれば、必要以上に不安になりにくくなります。
2.次の治療予定を確認する
次の受診日、薬、検査、胚移植のおおよその予定を整理します。
先がまったく見えない状態を減らします。
3.今つらい身体を一つ整える
睡眠。
胃腸。
肩こり。
疲労。
月経痛。
全部を一度に変える必要はありません。
一番気になっているところから始めます。
自分だけでは整えにくいときには、鍼灸を利用する方法もあります。
「休む周期を無駄にしない」と頑張りすぎないでください
ここまで、
休む周期にできることをお話ししてきました。
でも、
今度は、
「休んでいる間に全部整えなきゃ」
とならないでください。
食事も完璧。
睡眠も完璧。
運動も完璧。
身体も完璧。
そんな状態にしてからでなければ、胚移植できないわけではありません。
身体づくりは、
次の胚移植の合格条件ではありません。
今より少し眠れる。
胃腸が少し楽になる。
肩の力が抜ける。
疲れを持ち越しにくくなる。
そのくらいからでいいのです。
このテーマの続きは9月21日の夜に
今日は、
胚移植を休む意味。
医学的に確認しておきたいこと。
生活の中でできること。
を中心にお話ししました。
このテーマの続きは、9月21日夜公開の
「休む周期を無駄にしない体質改善の考え方」
で、
「せっかく休むなら、何かしなければ」
と頑張りすぎず、
次の治療までに身体をどう見て、何から整えていけばよいのか
を東洋医学と鍼灸の視点からもう少し詳しくお伝えします。
胚移植を休むことになり、焦っている方へ
移植が一周期延びると、
「また待たないといけない」
と思いますよね。
でも、
待っているだけの時間にしなくても大丈夫です。
必要な検査や治療は医療機関で進める。
次の予定を確認する。
そして、
身体の疲れを整える。
蓮心はり灸堂では、次の胚移植予定や治療内容を確認しながら、その方の睡眠、胃腸、月経、冷え・のぼせ、疲労、首肩の緊張などを見て施術を組み立てています。
「移植周期になってから何とかする」のではなく、
少し時間のある今だからこそ、今の身体を一度きちんと見ておく。
そんな鍼灸の使い方もできます。
休む周期を、
焦り続ける一か月ではなく、
次の治療へ向かう身体を整える時間にしていきましょう。
参考・出典
日本生殖医学会「生殖医療Q&A 生殖補助医療にはどんな種類があるのですか?」
欧州生殖医学会(ESHRE)「IVF/ICSIにおける卵巣刺激ガイドライン 2025年更新版」
米国生殖医学会(ASRM)「中等度・重度卵巣過剰刺激症候群の予防に関するガイドライン」
Frontiers in Endocrinology「凍結融解胚移植の最適なタイミング―延期すべきか:システマティックレビュー・メタ解析」
世界保健機関(WHO)「不妊症の予防・診断・治療ガイドライン」
厚生労働省「葉酸とサプリメント―神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果」

