「今周期は移植を休みましょう」
そう言われたとき、
ほっとする方もいれば、
「また1か月遅れてしまう」
と焦る方もいます。
年齢のこと。
残っている胚のこと。
次の移植のこと。
ここまで治療を続けてきたからこそ、予定が一度止まるだけでも不安になりますよね。
9月17日の
「胚移植を休む周期にできること」
では、胚移植を休むことになったときの医学的な考え方についてお話ししました。
今夜はその続きとして、
休む周期を「何もしない1か月」にせず、身体を整える時間としてどう使うか
を考えてみましょう。
まず知っておきたいこと|全員が1周期休む必要はありません
「採卵や移植のあとは、一度身体を休ませた方が妊娠しやすい」
と聞くことがあります。
しかし、体外受精(IVF)後の凍結融解胚移植(FET)について、すべての方が1周期以上あけた方がよいとは確認されていません。
即時にFETを行う場合と1周期以上延期した場合を比較した研究をまとめたメタ解析でも、出生率、臨床妊娠率、妊娠喪失率に明確な差はみられませんでした。
つまり、
「身体づくりのためには必ず1周期休まなければいけない」ということではありません。
医学的に次の移植へ進める状態で、主治医から進めてよいと言われているのであれば、無理に休む必要はありません。
それでも「休む周期」が必要になることはあります
一方で、治療の途中には、少し時間を置いた方がよい場合があります。
たとえば、
- 採卵後の身体の回復を待つ
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などへの対応が必要
- 子宮内膜ポリープなど子宮内の治療を行う
- 子宮鏡検査後の治療計画を整理する
- 感染症やほかの病気の治療を優先する
- 使用している薬について確認や調整が必要
- 主治医が次周期以降の移植を勧めている
といった場合です。
また医学的には進められても、
「採卵からずっと走り続けてきて、少し休みたい」
と感じる方もいます。
休む理由は一人ひとり違います。
大切なのは、
休むことそのものを妊活の遅れと決めつけないことです。
「休む」と「何もしない」は同じではありません
移植がない周期には、
通院回数が減る。
薬が減る。
判定日がない。
ということがあります。
すると急に時間が空き、
「今月は妊活をしていない」
ように感じることがあります。
でも身体は、その1か月も毎日動いています。
月経が来て、卵胞が育ち、排卵し、また次の月経へ向かう。
眠る。
食べる。
働く。
疲れる。
回復する。
治療予定が少ないからこそ、
普段は後回しになっていた身体へ目を向けやすい時期
でもあります。
休む周期に最初にすることは「何かを増やす」ことではありません
体質改善というと、
運動を始める。
サプリメントを追加する。
漢方を飲む。
温活をする。
食事を全部変える。
と考える方がいます。
でも、休む周期にいきなり全部始める必要はありません。
まず確認してほしいのは、
今、一番つらいのはどこか
です。
眠れないのか。
胃腸が弱っているのか。
疲れが抜けないのか。
首肩がこっているのか。
月経痛が強いのか。
身体が冷えるのか、反対にほてりやすいのか。
「妊娠のために何を足す?」と考える前に、今の身体を一度整理してみましょう。
体質改善① まず睡眠のリズムを取り戻す
不妊治療中は、生活が病院の予定に左右されることがあります。
朝早い採血。
仕事前の通院。
採卵時間の連絡待ち。
移植。
判定日。
そして夜には検索。
治療が一段落した周期だからこそ、睡眠を見直すよい機会になります。
毎日完璧な時間に眠る必要はありません。
まずは、起きる時間が大きくずれていないか、布団へ入ってから長時間スマートフォンを見ていないか、夜中に何度も目が覚めていないかを確認してみてください。
「8時間寝なければ」と時間だけを追いかけるより、今より少し休める生活へ戻すこと。
そこからで十分です。
体質改善② 胃腸を置き去りにしない
採卵や移植を優先していると、
胃が重い。
便がゆるい。
便秘が続く。
食欲がない。
といった不調を、
「今はそれどころじゃない」
と後回しにしてしまうことがあります。
でも、食事を取るたびにつらい状態なら、休む周期に一度見直してみましょう。
体質改善だからといって、妊活によいといわれる食品をさらに増やす必要はありません。
胃腸が弱っているなら、まずは無理なく食べられることが大切です。
必要に応じて医療機関で原因を確認しながら、食事や鍼灸で身体を整えていきます。
体質改善③ 月経を観察する
移植周期では、薬によって月経周期を調整することがあります。
治療内容によっては、いつもの自然な周期とは違う経過になることもあります。
休む周期には、
月経量。
月経痛。
血の塊。
月経前の不調。
周期の長さ。
など、自分の状態を確認しやすくなることがあります。
ただし、月経を細かく採点する必要はありません。
「今までと何か変わった?」
くらいで構いません。
出血量が極端に増えた、強い痛みが続く、不正出血があるなど、気になる変化があれば主治医へ相談しましょう。
体質改善④ 首肩や背中の緊張も整える
「妊活の体質改善」と聞くと、子宮や卵巣だけに意識が向きやすくなります。
でも実際には、
首が回らない。
肩が重い。
背中が張っている。
頭痛がする。
という方も少なくありません。
こうした不調を我慢したからといって、妊活に有利になるわけではありません。
治療予定の少ない周期だからこそ、
「ずっとつらかったけれど後回しにしていた症状」
を整えてもいいのです。
体質改善⑤ 運動は「急に頑張る」のではなく日常へ戻す
「休む周期だから運動しよう」
と、急にハードなトレーニングを始める必要はありません。
採卵直後などは卵巣が腫れていることもあるため、運動について主治医から指示がある場合にはその指示を優先してください。
身体が回復し、運動制限がなければ、散歩など普段できる活動から少しずつ戻していきましょう。
運動も、
「妊娠率を上げるためにしなければならないこと」
にする必要はありません。
身体を動かすと気持ちがいい。
夜に眠りやすい。
身体が固まりにくい。
そのくらいの目的から始めて大丈夫です。
「休む1か月で体質を完成させる」必要もありません
ここは、とても大切です。
次の移植まで1か月あると、
「この1か月で身体を完璧に整えなければ」
と思うことがあります。
でも、身体は1か月で突然別人のように変わるものではありません。
食事も。
睡眠も。
運動も。
鍼灸も。
一つの周期ですべてを完成させる必要はありません。
休む周期は、
「次の移植までに100点を取る期間」
ではなく、
今まで気づかなかった身体の状態を確認して、続けられる整え方を見つける時間です。
東洋医学では「次の移植だけ」を見ません
東洋医学では、休む周期だから特別な体質になるわけではありません。
今の身体に何が重なっているかを見ます。
腎虚(じんきょ)|疲れが抜けにくく、冷えなどが重なる状態
長く治療を続けて疲れている、腰がだるい、冷えを感じやすいなどを合わせて見ます。
肝鬱気滞(かんうつきたい)|治療への緊張が身体にも残っている状態
首肩の張り、ため息、胸やお腹の張り、イライラなどが重なることがあります。
脾虚(ひきょ)|胃腸の弱りや疲労が目立つ状態
食欲低下、胃もたれ、軟便、身体のだるさなどを合わせて考えます。
血虚(けっきょ)|疲労や眠りの浅さなどが重なる状態
疲れやすい、立ちくらみ、眠りが浅いなどを合わせて見ます。
瘀血(おけつ)|痛みや巡りの滞りを考える状態
月経痛や同じ場所に続く痛みなどを確認します。
これは、
「この体質だから着床できない」
という意味ではありません。
次の治療だけを見るのではなく、今その治療を受ける身体がどんな状態なのかを見るための考え方
です。
実は、休む周期は鍼灸を始めやすい時期でもあります
採卵や胚移植の直前になって、
「今から何かできますか?」
と鍼灸を探す方もいます。
もちろん、その時点からご相談いただいても構いません。
ただ、治療予定が少ない周期には、鍼灸を始めやすいメリットがあります。
次の移植日だけに合わせるのではなく、月経後、排卵前後、月経前などの身体の変化を見ながら施術を組み立てやすくなるからです。
また、
睡眠。
胃腸。
月経痛。
首肩の緊張。
疲労。
冷え・のぼせ。
など、普段の身体を確認する時間も取れます。
「移植の日に何とかする鍼灸」ではなく、次の治療までの身体を継続して整える鍼灸。
休む周期だからこそ、こうした使い方ができます。
「移植前だけ」ではなく、その前から身体を見ておく意味
次の移植日が決まってから身体を見始めると、
「あと10日しかない」
「あと1週間で何とかしないと」
という気持ちになりやすくなります。
一方、休む周期から鍼灸を始めておくと、
普段どのくらい眠れているのか。
排卵前後に体調が変わるのか。
月経前に首肩が固くなるのか。
胃腸は安定しているのか。
治療のない周期でも疲れが強いのか。
といった、その方自身の身体の変化を見ることができます。
そこから次の採卵や胚移植へ向けて、施術内容を調整していきます。
鍼灸は「子宮だけを整える施術」ではありません
妊活中の鍼灸というと、
「子宮の血流をよくする」
「着床しやすくする」
というイメージを持つ方もいると思います。
でも当院では、それだけを目的に施術するわけではありません。
不妊治療を続ける女性には、
眠れない。
胃腸が弱っている。
肩や背中が固まっている。
疲れが抜けない。
治療のことを考えると身体に力が入る。
といった状態が重なることがあります。
不妊女性を対象としたシステマティックレビュー・メタ解析でも、鍼灸を取り入れた群で不安などの心理的指標の改善が報告されています。
また、体外受精を受ける女性を対象とした2025年の大規模なシステマティックレビュー・メタ解析でも、鍼灸を取り入れた群で不安の軽減が報告されています。
次の治療だけを見ながら待つのではなく、今つらい身体も一緒に整えていける。
それが、休む周期に鍼灸を取り入れるメリットの一つです。
蓮心はり灸堂では「あと何日で移植?」だけを見ません
休む周期にご来院いただいた場合には、
「次の移植はいつですか?」
だけを確認して終わりません。
当院では、
- これまでの採卵・胚移植の経過
- 次回の治療予定
- 現在使用している薬やサプリメント
- 月経周期や月経時の状態
- 睡眠
- 胃腸・便通
- 冷え・のぼせ
- 疲労
- 首肩や背中の緊張
- 今、一番困っていること
を確認しながら施術を組み立てます。
次の移植まで時間があるからこそ、
「次の治療日」ではなく「今の身体」から施術を始められる。
ここは休む周期の大きなメリットです。
「何もしていない気がして不安」という方へ
薬もない。
通院も少ない。
採卵もない。
移植もない。
そんな周期は、治療をしている実感がなくなります。
そして、
「みんなは進んでいるのに、私は止まっている」
と感じることがあります。
でも、治療予定が入っていないことと、
前へ進んでいないことは同じではありません。
医師から必要と言われた治療を済ませる。
身体を回復させる。
眠れるようにする。
胃腸を整える。
長く我慢していた肩こりを楽にする。
次の治療に向けて鍼灸を始める。
それも、次へ進む準備です。
休む周期に気をつけたいのは「やりすぎること」
焦りが強いほど、
サプリを増やす。
食事を厳しくする。
毎日運動する。
温活を増やす。
新しい健康法を始める。
という方向へ進みやすくなります。
でも、それで身体も気持ちも疲れてしまったら、体質改善とは言いにくくなります。
休む周期だからこそ、
新しく10個始めるより、今つらいことを1つか2つ整える。
そのくらいで十分です。
今周期にすることを3つだけ選ぶなら
1.次の治療予定を確認する
次回の受診日、必要な検査、薬の予定などを確認し、医学的に必要なことを整理します。
2.今つらい身体の症状を一つ選ぶ
睡眠、胃腸、月経痛、肩こり、疲労など、全部を同時に変えようとせず、今一番気になるものから整えます。
3.次の治療が始まる前から身体を整える
セルフケアだけでは難しいと感じる場合には、治療予定が少ない今の時期から鍼灸を取り入れてみる方法があります。
次の移植直前に慌てて始める必要がないぶん、自分の身体をゆっくり確認できます。
採卵後などで身体の調子がおかしいときは「体質改善」より先に相談を
休む周期だからといって、すべてを鍼灸やセルフケアで対応するわけではありません。
採卵後に強い腹痛やお腹の張りがある、息苦しい、急激に体重が増える、尿量が明らかに減る、発熱や強い出血があるなどの場合には、まず治療を受けている医療機関へ連絡してください。
また、子宮鏡検査や手術後などに主治医から生活上の指示を受けている場合には、その指示を優先します。
医療で確認するところと、身体づくりとして整えるところを分ける。
その両方が大切です。
休む周期を「遅れ」だけで終わらせない
年齢を考えると、
1か月でも惜しい。
そう感じることもあります。
その気持ちを無理に、
「休めてよかった」
と思い直す必要はありません。
早く進みたいなら、その気持ちも大切です。
一方で、主治医と相談した結果、今周期は休むことになったのなら、
その時間まで「失った1か月」にしなくてもいいと思います。
身体を整える。
気になっていた不調を相談する。
次の治療へ向けて鍼灸を始める。
そして、少しだけ妊活以外の時間も取り戻す。
治療がない周期だからできることがあります。
休む周期だからこそ、身体づくりを始めたい方へ
次の採卵や胚移植の日が決まってから、
「何かしなければ」
と焦る必要はありません。
時間がある今だからこそ、自分の身体をゆっくり見ていくことができます。
蓮心はり灸堂では、次回の治療予定だけではなく、これまでの治療経過、月経、睡眠、胃腸、冷え・のぼせ、疲労、首肩の緊張などを確認し、その方に合わせて施術を組み立てています。
「今周期は何も治療がなくて、少し不安」
という段階からでも構いません。
休む周期を、
ただ待つ1か月ではなく、
次の治療へ向かう身体を整える1か月へ。
焦らず、でも何もしないままでもなく、今できる身体づくりを一緒に始めていきましょう。
参考・出典
Frontiers in Endocrinology「凍結融解胚移植の最適な時期―延期すべきか:システマティックレビュー・メタ解析」
Human Reproduction Update「体外受精・顕微授精後の即時凍結融解胚移植と延期移植:システマティックレビュー・メタ解析」
Healthcare「不妊女性の感情的問題に対する鍼灸治療:システマティックレビュー・メタ解析」
International Journal of Nursing Studies「体外受精を受ける女性に対する鍼灸:最新システマティックレビュー・メタ解析」

