「精液検査の数値があまり良くありませんでした」
そして医師から、
「精索静脈瘤がないか、泌尿器科で一度診てもらいましょう」
と言われた。
そんな経験をすると、
「静脈瘤って何?」
「手術が必要なの?」
「このせいで妊娠できなかったの?」
と、ご夫婦ともに不安になると思います。
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)は、男性不妊の中でも比較的よくみられる状態の一つです。
そして大切なのは、
原因を確認し、状態によっては治療を検討できる男性不妊の要因であること。
です。
精液検査の結果が悪かったときに、
「男性側はもうできることがない」
と考える必要はありません。
今回は、精索静脈瘤とはどのような状態なのか、検査や治療、ご夫婦での妊活の進め方まで順番に整理していきます。
精索静脈瘤とは?
精巣、いわゆる睾丸の周囲には、血液を心臓へ戻すための静脈があります。
この静脈の流れがうまくいかず、血液が逆流することで、
精巣の周囲にある静脈が拡張した状態
を精索静脈瘤と呼びます。
脚にできる「下肢静脈瘤」と少し似たイメージですが、精索静脈瘤は陰嚢の中、精巣の周囲に起こります。
多くは左側にみられます。
これは、左右で精巣から戻る静脈の走り方が異なることなどが関係しています。
日本の男性不妊症診療ガイドラインでは、精索静脈瘤は健康な男性の15~20%程度にもみられ、男性不妊症では約30%を占める代表的な原因の一つとされています。
つまり、
精索静脈瘤があること自体は、それほど珍しいことではありません。
精索静脈瘤があれば、必ず男性不妊になる?
いいえ。
精索静脈瘤があっても、問題なく妊娠・出産に至るご夫婦もいます。
精索静脈瘤は健康な男性にもみられるため、
「ある=不妊」
ではありません。
重要なのは、
- 精液検査に異常があるか
- 精索静脈瘤の程度
- 精巣の状態
- ご夫婦の妊活期間
- 女性側の年齢や検査結果
などを合わせて判断することです。
精索静脈瘤という言葉だけを見て、
「これが全部の原因だった」
と決める必要はありません。
なぜ精子に影響することがあるの?
精索静脈瘤では、精巣周囲の静脈に血液がうっ滞することで、精巣の環境に影響する可能性があります。
研究では、
- 精巣周囲の温度上昇
- 酸化ストレス
- 低酸素状態
- 精子DNAへのダメージ
などが関係していると考えられています。
その結果、
- 精子濃度が低い
- 精子数が少ない
- 運動率が低い
- 精子の形態に問題がある
などの精液所見につながる場合があります。
ただし、
精液検査の数値だけで精索静脈瘤と診断することはできません。
男性不妊に詳しい泌尿器科で診察を受けることが大切です。
精索静脈瘤は自分で分かる?
軽い精索静脈瘤では、本人に症状がないこともあります。
一方、程度が強くなると、
- 陰嚢の重だるさ
- 長時間立っていると違和感がある
- 陰嚢に痛みを感じる
- 血管が浮いて見える
- 左右の精巣の大きさが気になる
といった症状がみられる場合があります。
特に高度なものでは、立った状態で陰嚢を見ると、拡張した血管が分かることがあります。
とはいえ、
自分で触って、
「これは静脈瘤だ」
と判断する必要はありません。
精液検査に異常を指摘された場合や陰嚢の違和感がある場合は、一度男性不妊を診ている泌尿器科へ相談しましょう。
精索静脈瘤にはGradeがあります
精索静脈瘤は、診察所見によって程度を分類します。
Grade 1
立った状態でお腹に力を入れたときに、触診で分かる程度。
Grade 2
お腹に力を入れなくても、立っている状態で触診すると分かる程度。
Grade 3
立っている状態で、見た目でも静脈の拡張が分かる程度。
また、
触診では分からないものの超音波検査で静脈の拡張が分かるものを、
subclinical varicocele(潜在性精索静脈瘤)
と呼びます。
このGradeや精液所見を合わせて、治療が必要かどうかを考えます。
どんな検査をする?
まず重要なのは、
男性不妊を診る泌尿器科医による診察
です。
視診・触診
立った状態などで陰嚢を確認し、精索静脈瘤の有無や程度を調べます。
精液検査
- 精液量
- 精子濃度
- 総精子数
- 運動率
- 前進運動率
- 正常形態率
などを確認します。
精液所見には変動があるため、一度の検査だけですべてを判断しない場合があります。
陰嚢超音波検査
必要に応じてカラードプラ超音波検査を行い、
- 静脈の太さ
- 血液の逆流
- 精巣の大きさ
などを確認します。
ホルモン検査
精液所見によっては、
- FSH
- LH
- テストステロン
などを調べる場合もあります。
精索静脈瘤だけを見るのではなく、
男性の造精機能全体を評価する
ことが大切です。
どんな場合に手術を考える?
精索静脈瘤が見つかったからといって、全員が手術を受けるわけではありません。
日本の男性不妊症診療ガイドラインでは、
触診で確認できるGrade 2以上の精索静脈瘤があり、精液所見が不良な男性
に対して、手術が推奨されています。
これは比較的しっかりとした推奨です。
精索静脈瘤のある不妊男性を対象とした研究では、手術後に、
- 精子濃度
- 総精子数
- 運動性
などが改善することが報告されています。
さらに、適切に患者さんを選んだ場合には、妊娠につながる可能性を高めることも期待されています。
つまり精索静脈瘤は、
「精液検査が悪いから人工授精や顕微授精へ進むしかない」と考える前に、男性側で治療できる可能性がないか確認する価値のある病気
なのです。
どんな手術をするの?
現在、日本では顕微鏡下精索静脈瘤手術が多く行われています。
精巣から戻る静脈のうち、逆流している静脈を処理し、血液のうっ滞を改善する手術です。
特に顕微鏡を使った低位結紮術が広く行われています。
手術方法や麻酔方法、入院の有無などは医療機関によって異なります。
手術を勧められた場合には、
- なぜ手術を勧めるのか
- 自分のGradeはいくつか
- 精液所見はどの程度か
- 手術後いつ再検査するか
- 不妊治療をいつ再開するか
まで確認しておくと安心です。
手術をしたら、すぐ精子が良くなる?
精子は、今日つくられて明日射精されるわけではありません。
精子がつくられ成熟するまでには時間がかかります。
そのため、精索静脈瘤の治療後も、
翌週すぐに精液検査の数値が変わるわけではありません。
日本の調査では、術後約3か月で精液検査を行う施設が多くあります。
海外のガイドラインでも、精液所見の改善には複数の造精周期が必要と考えられています。
ですから手術後は、
「一か月経ったのに数値が変わらない」
と焦らず、担当医から指定された時期に再検査を受けましょう。
ご夫婦の妊活では「女性側の時間」も一緒に考える
ここはとても大切です。
男性側に精索静脈瘤が見つかった場合、
「では手術をして、半年くらい待ってから妊活を再開しよう」
と単純に決められるとは限りません。
女性側が、
30代前半なのか。
30代後半なのか。
40代なのか。
AMHはどうか。
採卵中なのか。
すでに凍結胚があるのか。
によって、時間の意味が違います。
欧州のガイドラインでも、精索静脈瘤の治療方針を考える際には、女性側の年齢や卵巣予備能も考慮することが重要とされています。
つまり、
「夫の治療」と「妻の治療」を別々に考えないこと。
です。
たとえば、
男性側は泌尿器科で精索静脈瘤を治療する。
女性側は必要に応じて採卵を進める。
その後の人工授精や胚移植のタイミングを生殖医療の医師と相談する。
というように、ご夫婦の状況によって進め方を組み合わせることができます。
精索静脈瘤が見つかったことを「悪い知らせ」だけにしない
精液検査のあとに、
「精索静脈瘤があります」
と言われると、ショックを受ける男性もいると思います。
奥様も、
「やっぱり男性側にも原因があったんだ」
と思うかもしれません。
でも、少し見方を変えてみてください。
原因が全く分からない状態から、
「ここは専門医に確認できる」
という場所が見つかったとも言えます。
そして精索静脈瘤は、男性不妊の中でも治療が検討できる代表的な病気の一つです。
大切なのは、
「誰が原因だったのか」
ではなく、
「二人の妊活に必要な情報が一つ増えた」
と考えることです。
※「男性不妊の話題を夫婦でどう切り出すか迷っている方」は、こちらの記事も参考にしてください。
男性側の結果が出ると、女性が自分を責めなくなることもあります
妊活では、どうしても女性側の検査や治療が多くなります。
採血。
内診。
卵管検査。
排卵誘発。
人工授精。
採卵。
胚移植。
そのため結果が出ないと、
「私の卵子が悪いのかな」
「私の子宮の問題?」
「私の身体が冷えているから?」
と、女性だけが自分の身体を責めてしまうことがあります。
男性側もきちんと調べることで、
妊活は、
「女性の身体だけの問題ではない」
と改めて確認できます。
これはご夫婦にとって、とても大切なことです。
夫の検査や治療を待っている間、妻は何もできない?
そんなことはありません。
男性側で精索静脈瘤の評価や治療を進めている間にも、女性側は、
- 現在の治療周期
- 月経
- 睡眠
- 胃腸
- 冷えやのぼせ
- 疲労
- 首肩の緊張
- 生理痛
- 治療による身体の負担
を整えていくことができます。
これは、
「女性側にも何か原因があるから整えなければならない」
という意味ではありません。
男性側の治療を待つ時間を、
ただ不安に過ごすのではなく、
ご夫婦それぞれが次の治療に向けて準備する時間として使う
という考え方です。
ここで鍼灸を取り入れることも、一つの選択肢になります。
ご夫婦の妊活に鍼灸を取り入れるメリット
病院では、
精液検査。
ホルモン検査。
精索静脈瘤の診察。
採卵。
胚移植。
など、妊娠に必要な医学的評価・治療が進んでいきます。
一方で、治療が長くなるほど、
「最近眠れていない」
「胃腸がずっと不安定」
「身体が冷える」
「採卵後から疲れが抜けない」
「夫の検査結果まで気になって、ずっと身体に力が入っている」
といった、検査結果には表れにくい身体の負担が重なることがあります。
鍼灸の良さは、
一つの数値だけを見るのではなく、
妊活を続けている今の身体全体を確認しながら整えられること
にあります。
そして、施術を受けている時間は、
次の検査を考える時間でも、
妊娠率を検索する時間でもありません。
一度身体を預け、
呼吸をゆるめ、
妊活から少し離れて休む。
そうした時間を定期的につくれることも、治療を続ける女性にとって大きなメリットです。
「夫の問題」と「私の問題」に分けない身体づくり
男性側に精索静脈瘤が見つかったとき、
「原因は夫だったから、私は何もしなくてもいい」
と考える必要もありません。
反対に、
「私にも問題があるかもしれないから、もっと頑張らなければ」
と考える必要もありません。
ご夫婦の妊活では、
男性側は必要な検査や治療を受ける。
女性側は現在の治療を続けながら、自分の身体を整える。
二人ともできる範囲で生活を整える。
それぞれに必要なことを、それぞれ進めればいいのです。
鍼灸は、こうした妊活を支える一つの方法として取り入れることができます。
蓮心はり灸堂では「男性側の検査結果」も妊活の大切な情報として見ます
当院で女性の妊活サポートを行う際には、
女性側のAMHやホルモン値だけを見るわけではありません。
ご夫婦の状況として、
- 精液検査を受けているか
- 精子濃度や運動率はどうだったか
- 精索静脈瘤を指摘されているか
- 泌尿器科へ受診しているか
- 手術を予定しているか
- 再検査はいつか
といった男性側の情報も、可能な範囲で確認します。
そのうえで女性側について、
- タイミング法・人工授精・体外受精のどの段階か
- 採卵・胚移植の予定
- 月経周期
- 使用している薬
- 睡眠
- 胃腸
- 便通
- 冷え・のぼせ
- 疲労
- 首肩の緊張
などを合わせて施術を考えます。
たとえば、
男性側の手術後の経過を待ちながら人工授精を続けるのか。
採卵を先に進めるのか。
凍結胚があり移植へ進むのか。
それぞれで女性の身体づくりも変わります。
男性側の治療と女性側の身体を切り離さず、ご夫婦の妊活全体を見ながら施術できること。
これは、妊活を専門的にみている鍼灸院だからこそ大切にできる部分です。
男性自身も、生活を「完璧」にする必要はありません
精索静脈瘤を指摘されると、
「酒を全部やめよう」
「毎日運動しよう」
「サプリを大量に飲もう」
と急に生活を変えようとする男性もいます。
もちろん、
禁煙。
適正体重。
適度な運動。
十分な睡眠。
過度な飲酒を避ける。
など、基本的な健康管理は大切です。
しかし、
精索静脈瘤という構造的な問題を、生活習慣だけで何とかしようとしないこと
も重要です。
まずは男性不妊に詳しい泌尿器科で状態を確認する。
そのうえで、
「自分に必要なことは何か」
を整理していきましょう。
当院での男性の施術について
蓮心はり灸堂は、基本的に女性専用の鍼灸院です。
ただし、
既存患者様からのご紹介、またはご夫婦でご来院いただく場合に限り、男性の施術もお受けしています。
男性不妊については、
まず泌尿器科で精索静脈瘤やホルモン、精巣など医学的に確認することを大切にしてください。
そのうえで、ご夫婦で身体づくりに取り組みたい場合には、
男性側の睡眠や疲労、身体の緊張、生活状況も確認しながらサポートすることができます。
「男性不妊だから男性だけを診る」のではなく、
妊活をしているご夫婦全体を考える。
それが当院のスタンスです。
精索静脈瘤を指摘されたら、まず確認したい4つ
病院で診断されたら、次の4つを確認してみてください。
1.精索静脈瘤は何Gradeですか?
Gradeによって、治療を検討する内容が変わります。
2.精液検査のどこに変化がありますか?
精子濃度。
総精子数。
運動率。
など、どの項目が低いのか確認します。
3.手術を勧める理由は何ですか?
自分の場合にどの程度の改善を期待して治療するのか聞いてみましょう。
4.妻の治療はどう進めればよいですか?
ここがご夫婦の妊活では非常に重要です。
女性側の年齢や卵巣予備能によっては、
男性側の治療経過を待ちながら、女性側の採卵などを並行して進めることもあります。
泌尿器科だけではなく、生殖医療の主治医とも情報を共有しましょう。
精索静脈瘤が分かったら「二人の次の一手」を考える
精索静脈瘤という診断は、
妊活に新しい問題が増えたように感じるかもしれません。
でも、
今まで、
「なぜ精液検査が良くないのだろう」
と分からなかったところに、
一つ確認できる要因が見つかったとも考えられます。
そして、
必要なら男性側は専門的な治療を受ける。
女性側は治療周期に合わせて身体を整える。
ご夫婦で次の治療計画を考える。
できることがあります。
男性側の結果が出たからといって、
誰かを責める必要はありません。
「二人の妊活に必要な情報が一つ増えた」
そう考えて、次の一歩を決めていきましょう。
このテーマの続きは、9月15日夜公開の「男性側の検査結果を夫婦で受け止める夜」で、
精液検査や精索静脈瘤などの結果が分かったあと、
夫婦でどのように話せばよいのかをお伝えします。
男性側の検査が進み、これからの妊活を整えたい方へ
「夫に精索静脈瘤が見つかった」
「手術をすることになったけれど、私はどう過ごせばいい?」
「夫の治療を待つ間に、自分の身体も整えておきたい」
そんなときは、ご夫婦の妊活全体を一度整理してみませんか。
蓮心はり灸堂では、男性側の検査や治療状況、女性側の採卵・人工授精・胚移植などの予定を確認しながら、睡眠・胃腸・月経・冷え・疲労・緊張まで含めて身体を整えています。
妊活では、病院で治療する時間だけでなく、
次の治療へ向けて身体を整えている時間も大切です。
ご夫婦それぞれに必要な医療を受けながら、女性側の身体づくりには鍼灸を取り入れる。
そんな進め方もできます。
「今は何をしたらいい?」という段階からでも、一緒に整理していきましょう。
参考・出典
日本泌尿器科学会「男性不妊症診療ガイドライン」
日本泌尿器科学会「パートナーがなかなか妊娠しない」
日本産科婦人科学会「不妊症」
欧州泌尿器科学会(EAU)「男性不妊症ガイドライン」

