鍼灸でできること、できないこと

不妊鍼灸による妊活サポートを表す奈良・上牧町の鍼灸院ブログ画像

鍼灸が気になっているけれど、
「本当に受ける意味があるのかな」
「どこまで期待していいのかな」
と迷っている方は少なくありません。

妊活中は、少しでもできることを探したい気持ちが強くなります。
その一方で、期待しすぎて傷つきたくない気持ちもあり、鍼灸に対して半信半疑になるのも自然なことです。

まず最初に、いちばん大切なことをお伝えします。
鍼灸は、妊活中の心と体を整える支えにはなりますが、何でも代わりになれるものではありません。
できることもあります。
でも、できないこともはっきりあります。
そこをきちんと分けて考えることが、安心して取り入れるために大切です。

目次

鍼灸で「できないこと」を先に知っておくことが大切です

妊活中の鍼灸について、まず誠実にお伝えしたいのは、鍼灸は医療機関で行う検査や治療の代わりにはならないということです。

鍼灸では、

  • 卵管の通り道を調べること
  • 排卵しているかを正確に確認すること
  • 精液所見を調べること
  • 子宮や卵巣の状態を画像で確認すること
  • 体外受精(IVF)や胚移植(ET)のような生殖補助医療(ART)の代わりをすること

はできません。

アメリカの生殖医学会(ASRM)では、不妊の評価では排卵の状態、卵管の通過性、子宮の状態、男性側の精液所見を系統的に確認することが大切だとしています。
つまり、妊活で本当に必要な確認は、クリニックや病院などの医療機関で行うことが前提です。

では、鍼灸でできることは何でしょうか

ここで大切なのは、鍼灸を「妊娠を約束する方法」としてではなく、妊活中の心と体の負担を整える補助的な支えとして考えることです。

イギリスの公的機関であるHFEA(英国ヒト受精・胚研究機構)では、鍼灸を含む補完療法について、リラクゼーションや全体的なウェルビーイングのために取り入れられることがあると案内しています。
一方で、鍼灸によって不妊治療の結果が良くなるという決定的な根拠は十分ではないとも示しています。
また、妊活や不妊治療は強いストレスを伴うものですが、『ストレスがあるから妊娠できない』という決定的な証拠はないとも説明しています。

つまり、鍼灸に期待したいのは、
「これを受ければ妊娠できる」
という単純な役割ではなく、

  • 気持ちの張りつめをやわらげること
  • 冷えやこわばりを整えること
  • 眠りの浅さや疲れを抱えたまま頑張り続けないこと
  • 妊活を続けやすい心身の状態に近づけること

です。

体外受精や胚移植の前後に鍼灸を受ければ、結果は上がるのでしょうか

この質問は、とても多いです。
だからこそ、ここも曖昧にせずにお伝えします。

アメリカの生殖医学会(ASRM)の胚移植に関するガイドラインでは、胚移植の前後に行う鍼灸は、体外受精(IVF)での生児獲得率を改善しないとされています。
つまり、移植前後の鍼灸を「妊娠率を上げる決め手」として強くすすめるのは、現在の公的な見解とは合いません。

ただし、それで鍼灸に意味がない、ということでもありません。
妊活中は、
移植前後の緊張
結果待ちの不安
首肩のこわばり
眠りにくさ
冷えや食欲の乱れ
など、数字には表れにくいしんどさが重なりやすくなります。

当院では、こうした毎日を過ごしにくくする負担を整える支えとして、鍼灸を大切にしています。

鍼灸は、婦人科の不調にもまったく意味がないのでしょうか

ここも、極端に考えないことが大切です。
鍼灸は、たとえば妊活そのものの結果を保証するものではありません。
その一方で、妊活中に重なりやすい

  • 月経前後の不調
  • 首肩の緊張
  • 冷え
  • 睡眠の浅さ
  • 気持ちの張りつめ
  • 自律神経の乱れを感じる状態

などに対して、東洋医学の視点から整える支えになることがあります。

また、欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)の心理社会的ケアのガイドラインでは、不妊や治療の過程で多くの方が感情的な苦痛を経験すること、そして妊活中の心理的ケアが大切であることが示されています。
鍼灸は心理療法そのものではありませんが、心身を「張りつめたままにしない」ための支えとして位置づけることはできます。

東洋医学では、妊活中のつらさを「巡り」と「養い」の両方からみます

東洋医学や中医学では、妊活中の不調を「子宮だけ」の問題としてはみません。
古典の『黄帝内経』では、女性の体は周期的な変化の中で、気・血・腎の働きが深く関わるとされ、巡りとのびやかさがとても大切にされています。

とくに今のような春から初夏にかけては、五行学説では「木」から「火」へ移る頃で、感情や巡りに関わるが乱れやすい時期です。
この時期に、我慢や不安が続くと、

  • ため息が増える
  • 胸や脇が張る
  • 首肩がこる
  • 眠りが浅い
  • 生理前にイライラしやすい
  • 目が疲れやすい

といった変化が出やすくなります。
東洋医学では、こうした状態を**肝鬱気滞(かんうつきたい)**とみることがあります。

また、

  • 冷えやすい
  • 疲れやすい
  • 胃腸が弱い
  • 朝がつらい
  • 食欲にむらがある

といった方では、脾気虚腎虚のように、体を支える力や養う力が弱っている見方をすることもあります。

鍼灸で整えたいのは、こうした巡りにくさ、休まりにくさ、回復しにくさです。
「冷えがすべての原因」と単純化せず、その方の体質や生活の背景まで含めてみていくことが大切です。

鍼灸の注意点や副作用も知っておきましょう

鍼灸は、きちんとした手技で行われれば比較的安全とされています。
アメリカの公的機関である国立補完統合衛生センターでは、適切に行われた鍼灸では重大な合併症は多くない一方で、不適切に行われると感染、臓器損傷、神経の障害などの重大な副作用が起こりうるとしています。
また、細い針を使う鍼灸でも、軽い出血、内出血、だるさ、眠気などが起こることがあります。
イギリスの病院の患者向け資料でも、軽い出血や内出血は約3%前後でみられることがあると案内されています。

そのため、

  • 出血しやすい体質がある
  • 抗凝固薬を使っている
  • 妊娠中である
  • 強い貧血や体調不良がある

といった時は、施術前に必ず相談することが大切です。

こんな時は、先に医療機関へ相談してください

鍼灸を受ける前に、あるいは鍼灸と並行して、まず医療機関で確認したほうがよいケースがあります。

  • 生理が何か月も来ない
  • 生理周期が大きく乱れる
  • 生理痛が強い
  • 不正出血がある
  • 強い骨盤痛がある
  • 卵巣の腫れや子宮内膜症を指摘されたことがある
  • 妊活を始めて1年たっても妊娠しない
  • 35歳以上で6か月ほど妊娠に至らない
  • 40歳前後で妊活を考えている
  • パートナー側の検査がまだできていない

世界保健機関(WHO)は不妊を12か月以上の定期的な避妊なし性交でも妊娠に至らない状態と定義しています。
また、アメリカ産科婦人科学会では、35歳以上では6か月、40歳を超える場合はより早めの評価が勧められています。

今日からできる3つ

1.鍼灸に「何を期待するか」を言葉にする

受ける前に、

  • 冷えを整えたい
  • 首肩のこわばりを楽にしたい
  • 妊活中の不安で眠りにくい
  • 月経前後のつらさを少し和らげたい

など、何を整えたいのかをはっきりさせておくと、期待が現実的になりやすくなります。
「何でもよくなるはず」と思いすぎると、かえってつらくなることがあります。

2.初夏の養生で、巡りと胃腸をいたわる

この時期は、五行学説では「木」から「火」へ移りやすい頃で、のぼせやすさと疲れやすさが同時に出やすい時期です。
食養生としては、

  • たけのこ
  • そら豆
  • アスパラガス
  • 初鰹
  • 金目鯛

など、旬のものを無理のない範囲で取り入れながら、冷たいものや甘いものに偏りすぎないようにしてみてください。
温かい汁物や、消化にやさしいたんぱく質を少しずつとることも、体を整える助けになります。

3.鍼灸だけで抱え込まず、必要な検査は受ける

鍼灸は心強い支えになり得ます。
でも、卵管、排卵、精液所見、子宮の状態など、妊活で大切な確認は医療機関で行う必要があります。
「整えること」と「調べること」を分けて考えることが大切です。

自分でやさしく触れやすいツボ

妊活中の緊張や巡りの滞りが気になる時に使いやすいツボがあります。

太衝(たいしょう)
足の甲、親指と人差し指の骨が交わる手前。
ため息が増える時、イライラしやすい時、気の巡りを整えたい時に使いやすいツボです。

三陰交(さんいんこう)
内くるぶしのいちばん高いところから、指4本分ほど上。
冷えや婦人科系のお悩み、下半身の巡りを整えたい時によく使われます。

どちらも、強く押し込む必要はありません。
息を吐きながら、少し気持ちいいくらいでやさしく触れてみてください。
妊娠の可能性がある時や体調に不安がある時は、無理をせずご相談ください。

当院の考え方

当院では、鍼灸を大切にしています。
でも、鍼灸を万能だとは考えていません。

鍼灸でできることは、
妊活中の心と体を、張りつめたままにしないこと。
冷え、睡眠、自律神経の乱れを感じる状態、月経前後の不調、気持ちの張りつめなどを、東洋医学の視点から丁寧にみていくことです。

一方で、
卵管の状態を調べること
排卵の有無を正確に確認すること
精液所見を評価すること
体外受精や人工授精の代わりをすること
はできません。

だからこそ当院では、必要な検査や治療はクリニックや病院などの医療機関で大切に進めていただきながら、その土台として心と体を整えるお手伝いをしています。

鍼灸にできることを正しく知ることは、がっかりするためではありません。
過度な期待で傷つかないためであり、安心して取り入れるためです。

「できること」と「できないこと」が分かると、かえって気持ちは落ち着きやすくなります。
迷っている時こそ、ひとりで抱えず、まずは今の体調や治療状況を一緒に整理するところから始めていきましょう。

この記事を書いた人

ロータスリーフ 蓮心はり灸堂
院長 菅原 裕万
はり師・きゅう師・医薬品登録販売者

奈良・上牧町で、妊活中の方や女性のお身体のお悩みに向き合い、マタニティケア・産後ケアまで、ライフステージに合わせた鍼灸施術を行っています。
病院での検査や治療を大切にしながら、東洋医学の視点も取り入れ、冷え・睡眠・自律神経・体質・生活習慣などを丁寧に確認し、その方に合った身体づくりを一緒に考えることを大切にしています。

院長プロフィールを見る

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