精子のDNA損傷って何?

男性不妊とご夫婦で取り組む妊活ケアを表すブログ画像

男性不妊について調べていると、

「精子のDNA損傷」
「DNA断片化」
「DFI」

という言葉を目にすることがあります。

「精液検査では問題がなかったのに、DNAに問題があることもあるの?」

そう聞くと、不安になる方もいるかもしれません。

まず知っておいてほしいのは、精子のDNA損傷は、通常の精液検査とは少し違う視点から精子を評価するものだということです。

そして、妊活をしているすべての男性が必ず調べなければならない検査でもありません。

今日は、「精子のDNA損傷とは何なのか」をできるだけ分かりやすく整理してみます。

目次

そもそも精子のDNAとは?

精子には、父親側の遺伝情報が入っています。

卵子と受精すると、

母親側の遺伝情報と
父親側の遺伝情報が合わさり、

受精卵がつくられていきます。

その大切な遺伝情報を含んでいるのが、精子のDNAです。

精子がつくられ、成熟していく過程では、このDNAが非常にコンパクトにまとめられて精子の頭部に収納されます。

ところが何らかの影響によって、DNAの鎖に傷が生じることがあります。

これが、

精子DNA損傷

と呼ばれるものです。

その中でもDNAの鎖が切れている状態を評価する考え方が、

精子DNA断片化(SDF:Sperm DNA Fragmentation)

です。

普通の精液検査とは何が違う?

前回の記事
「男性不妊の基本 まず何から始める?」
でお伝えしたように、男性不妊の基本となる検査は精液検査です。

一般的な精液検査では、

・精液量
・精子濃度
・精子数
・運動率
・精子の形態

などを確認します。

つまり、

「精子がどれくらいいるか」
「どれくらい動いているか」

といった部分を中心に見ています。

一方、精子DNA断片化検査では、通常の精液検査だけでは分からないDNAの損傷の程度を別の方法で評価します。

そのため、

「精子の数や運動率は基準範囲だった」

という場合でも、DNA断片化が多いケースが全くないとは言えません。

ただし、ここで大切なのは、

通常の精液検査では不十分だから、全員がDNA検査まで受けるべき

という意味ではないことです。

男性不妊の評価では、まず問診や診察、精液検査などの基本的な評価から進めることが一般的です。

「DFI」という数字は何を表している?

精子DNA断片化について調べると、

「DFI」

という言葉がよく出てきます。

DFIは、

DNA Fragmentation Index

の略です。

簡単に言えば、DNAに損傷がみられる精子の割合を評価する指標の一つです。

ただし、精子DNA断片化を調べる方法にはいくつか種類があります。

たとえば、

・SCSA
・TUNEL
・SCD
・COMET

などがあります。

検査方法によって評価方法や基準が異なるため、

「DFIが○%なら絶対に妊娠できない」

というような単純な見方はできません。

数字だけをインターネット上の情報と比べて、一人で判断しないことが大切です。

DNA損傷があると妊娠できないの?

ここは、とても誤解されやすいところです。

精子DNA断片化が高いことと、妊娠や生殖補助医療の成績との関連を示す研究はあります。

一方で、検査方法や基準値が統一されていない部分もあり、

「この数値なら妊娠できる・できない」と一つの数字だけで判断できるものではありません。

妊娠は、

女性側の年齢。
卵巣や子宮の状態。
卵子。
精子。
受精。
胚の発育。

など、さまざまな条件が関係して成立していきます。

男性側についても、精子DNA断片化だけで妊孕性のすべてを判断できるわけではありません。

検査結果は、

「原因を一つ決めるため」

ではなく、

これからの治療方針を考えるための情報の一つ

として捉える方がよいでしょう。

全員がDNA断片化検査を受ける必要はありません

「通常の精液検査だけでは分からないなら、最初から調べた方がいいのでは?」

と思うかもしれません。

しかし現在、精子DNA断片化検査は、妊活を始めたすべての男性に最初から行う標準的な検査とは位置づけられていません。

まずは、

問診。
診察。
精液検査。

など、男性不妊の基本的な評価を行います。

そのうえで、

・原因がはっきりしない場合
・生殖補助医療を繰り返しても結果につながりにくい場合
・流産を繰り返している場合

などでは、医師が必要性を判断し、精子DNA断片化について検討することがあります。

「聞いたことがあるから受けておこう」

ではなく、

今の自分たちに本当に必要な検査なのかを主治医と相談する

ことが大切です。

なぜ精子のDNAが損傷するの?

精子DNA断片化には、さまざまな要因が関係すると考えられています。

その一つとして知られているのが、

酸化ストレス

です。

私たちの身体の中では日常的に活性酸素が生じていますが、増えすぎると細胞に負担をかけることがあります。

精子は酸化ストレスの影響を受けやすい細胞の一つと考えられています。

精子DNA断片化との関連が指摘されているものには、

喫煙。
精索静脈瘤。
男性の加齢。
炎症や感染。
一部の生活習慣。

などがあります。

ただし、

「これを一つやめればDFIが必ず改善する」

というほど単純ではありません。

原因がある場合には、まずその原因を確認することが大切です。

特に精索静脈瘤など治療を検討できる病気が隠れている場合もあるため、数値だけを見てサプリメントを追加する前に、男性不妊を扱う泌尿器科などで相談することをおすすめします。

「抗酸化サプリを飲めばいい」とは限りません

DNA損傷と酸化ストレスが関係すると聞くと、

「では抗酸化サプリを飲めばいいのでは?」

と思うかもしれません。

実際、男性妊活向けの商品には、

ビタミン類。
亜鉛。
コエンザイムQ10。

など、抗酸化を意識した成分を含むものがあります。

しかし、サプリメントを飲めばすべての男性の精子DNA断片化が改善し、妊娠率が上がる、と単純に言えるわけではありません。

サプリメントを何種類も増やす前に、

睡眠は足りているか。
喫煙していないか。
飲酒量が多くなっていないか。
食事が極端に偏っていないか。
運動不足になっていないか。

といった基本的な生活を一度確認してみることも大切です。

「特別なものを足す」ことだけが、男性妊活ではありません。

精子は今の生活だけを映しているわけではありません

男性側の検査結果が良くないと、

「最近夜更かししたからだ」

「先週お酒を飲んだからだ」

と、直前の行動だけを責めてしまうことがあります。

でも、精子はその日の朝に突然つくられたものではありません。

精子がつくられ、成熟し、射出されるまでには時間がかかります。

そのため生活習慣を見直す場合も、

「三日頑張ったから結果が変わる」

というものではありません。

だからこそ、

短期間だけ完璧にするより、

無理なく続けられる生活を少しずつ整える

という考え方が大切です。

11月6日夜公開の
「精子の質を支える生活習慣を夫婦で見直す」
では、睡眠、食事、喫煙、飲酒、温めすぎなど、日常生活で確認したいことをもう少し具体的にお伝えします。

「男性側にも原因がある」と責めるための検査ではありません

精子DNA損傷という言葉は、

「DNAが壊れている」

という強い印象を与えます。

検査結果を見て、

「自分のせいなのか」

と男性側が落ち込んでしまうこともあるかもしれません。

でも、妊活の検査は、誰かの責任を決めるために行うものではありません。

女性側にも、

卵巣。
卵管。
子宮。
ホルモン。

など、いろいろな検査があります。

男性側にも、

精液検査。
ホルモン検査。
超音波検査。
必要に応じた追加検査。

があります。

二人の情報を集めながら、

「では次に何をするか」

を考えていく。

それが妊活の検査です。

鍼灸でDNA損傷を診断することはできません

当院でも男性側の妊活について相談を受けることがあります。

ただし、鍼灸で精子のDNA損傷を診断することはできません。

また、

「鍼灸をすればDNA損傷が治る」

と断定するものでもありません。

精液検査や精子DNA断片化検査については、医療機関で適切に評価してもらうことが基本です。

そのうえで当院では、

睡眠。
疲労。
仕事のストレス。
胃腸の状態。
冷えやほてり。
日々の生活リズム。

なども確認しながら、身体全体を整えていきます。

病院で検査を受けることと、日々の身体を整えること。

どちらか一方ではなく、必要に応じて組み合わせていくことが大切だと考えています。

数字を知ることより「どう使うか」が大切

男性不妊の検査には、さまざまなものがあります。

調べれば調べるほど、

「この検査も必要なのでは」

と不安になることもあります。

でも、検査は多ければ多いほど良いわけではありません。

精子DNA断片化についても、

「DFIを測っていないから妊活が進まない」

と焦らなくて大丈夫です。

まずは基本となる精液検査を受ける。

必要であれば男性不妊を扱う医師に相談する。

そして今までの治療経過を踏まえて、追加検査が必要かを判断してもらう。

それで十分です。

数字を集めることが目的ではなく、

その結果を、次の選択にどうつなげるか。

そこを大切にしてほしいと思います。

ロータスリーフ 蓮心はり灸堂では、女性側だけに妊活の負担を集めるのではなく、ご夫婦それぞれの身体や生活について一緒に考えていきます。

「夫は何をしたらいい?」
「検査結果をどう受け止めたらいい?」
「生活面でできることを整理したい」

そんな段階でも構いません。

今できることを、一つずつ整理していきましょう。

参考・出典

・日本泌尿器科学会「男性不妊症診療ガイドライン2024年版」
・American Urological Association / American Society for Reproductive Medicine「Diagnosis and Treatment of Infertility in Men: AUA/ASRM Guideline」
・European Association of Urology「EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health:Male Infertility」
・World Health Organization「WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th edition」

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