妊活を始めると、
女性は、
葉酸を飲む。
食事を見直す。
基礎体温をつける。
病院へ行く。
薬を使う。
採血や検査を受ける。
と、生活の中で変えることが増えていきます。
一方、夫はいつもどおり、
タバコを吸っている。
毎晩お酒を飲んでいる。
そんな状況を見ると、
「私はこんなに気をつけているのに」
と思うこともあるでしょう。
でも、
「今すぐタバコやめて」
「妊活中なんだからお酒も禁止」
と強く言うと、夫婦の間に新しい緊張が生まれることもあります。
まず知っておきたいのは、
男性側の生活習慣も妊活と無関係ではない
ということです。
特に喫煙については、精液所見や精子DNAへの悪影響を示す研究が積み重なっています。
一方、飲酒については、
「一滴でも飲んだら精子が悪くなる」
というほど単純ではありません。
今日は、
どこまでわかっていて、何から見直す価値があるのか
を整理していきましょう。
妊活は「女性だけが身体を整えるもの」ではありません
不妊の原因は、
女性側。
男性側。
双方。
検査をしても明確な原因がわからない場合。
があります。
WHOでも、男性側の生活習慣として、
喫煙。
過剰な飲酒。
肥満。
などが妊孕性へ影響する可能性があるとされています。
つまり、
女性側だけが食事や生活を見直せばよいわけではありません。
夫婦それぞれが、自分の身体についてできることを考える。
それが妊活の基本です。
男性の喫煙は、妊活で優先して見直したい習慣です
生活習慣の中でも、
喫煙は比較的エビデンスがそろっているものの一つ
です。
WHOの2025年の不妊ガイドラインでは、男性の喫煙は、
・精液量
・精子数
・精子運動率
・精子形態
などの低下と関連する可能性が示されています。
米国生殖医学会(ASRM)の委員会見解でも、
喫煙男性では、
精子濃度。
運動率。
形態。
などに悪影響を認めた研究がまとめられています。
喫煙男性では、精子濃度が低かった研究もあります
ASRMがまとめた研究では、
喫煙男性では非喫煙男性と比較して、
精子濃度が平均で約22%低かった
という報告があります。
さらに、
吸う本数が増えるほど影響が大きくなる、
いわゆる用量依存的な関係も報告されています。
ただし、
「タバコを吸っている男性は必ず精液検査が異常になる」
という意味ではありません。
喫煙していてもWHOの基準範囲内に入る男性もいます。
一方で、
検査値が基準範囲だから、喫煙の影響がゼロとは言い切れない
ところが難しいところです。
精子は「数・運動率」だけではありません
精液検査では、
精液量。
精子濃度。
精子数。
運動率。
形態。
などを確認します。
でも、精子にはもう一つ、
DNAの状態
があります。
精子の頭部には、父親側の遺伝情報であるDNAが入っています。
このDNAに傷(損傷)が多く入ってしまった状態を、
精子DNA断片化
と呼びます。
喫煙と精子DNA損傷の関係も指摘されています
タバコの煙には、
酸化ストレスを増やしたり、DNAへ影響したりする多くの物質が含まれています。
ASRMの2026年の反復流産に関する委員会見解でも、
精子DNA損傷に関係する可能性のある要因として、
・喫煙
・環境中の有害物質
・発熱
・精索静脈瘤
・男性年齢
などが挙げられています。
さらに、
精子DNA断片化が高い男性では、流産との関連を示す研究もあります。
だからといって、
「喫煙している夫が流産の原因だった」
と考えることはできません。
流産には多くの原因があります。
でも、
男性側の精子についても、濃度や運動率だけでなくDNAの状態まで研究されるようになっている
ことは知っておいてよいと思います。
精液検査が正常でも、禁煙を考える意味はあります
「精液検査は正常だったから、タバコは関係ないでしょ」
と思う男性もいるかもしれません。
でも、
通常の精液検査と、
精子DNA断片化検査は、
見ているものが違います。
また、精液検査自体にも変動があります。
そのため、
正常値だったから、
「何をしても精子には影響しない」
とは考えない方がよいでしょう。
特に、
これから妊娠を目指す。
体外受精・顕微授精を予定している。
流産を繰り返している。
という場合には、
禁煙は男性側が取り組める生活改善の中でも優先順位の高いもの
だと考えます。
加熱式タバコなら大丈夫?
「紙巻きタバコではなく、加熱式だから大丈夫」
「電子タバコに変えたから禁煙と同じ」
と思う方もいます。
でも、
ニコチンを含む製品や電子タバコについても、生殖への影響が研究されています。
ASRMでは、
紙巻きタバコだけでなく、
電子ニコチン送達システム。
加熱式・無煙タバコなどについても、
妊娠を希望する場合には慎重に考えるべき対象として扱っています。
「煙が少ない・匂いが少ない=精子への影響がない」
とは言えません。
妊活という視点では、
紙巻きから別のタバコ製品へ替えることを最終目標にするより、
禁煙そのものを検討する方がよいでしょう。
受動喫煙も「夫だけの問題」ではありません
夫が、
「外で吸っているから妻には関係ない」
と思っている場合もあります。
でも、妊娠を希望している時期から、
女性側の受動喫煙もできるだけ減らしたいところです。
妊娠成立後も喫煙・受動喫煙には妊娠経過や胎児への健康リスクがあります。
ですから、
男性側の禁煙は、
自分の精子だけではなく、パートナーや将来の妊娠環境を守ることにもつながります。
では、お酒は全部やめた方がいい?
ここは喫煙ほど単純ではありません。
大量・長期間の飲酒は、
男性の生殖機能やホルモン、精液所見へ悪影響を及ぼす可能性があります。
WHOでも、
過剰な飲酒
は妊孕性へ影響する生活習慣の一つとして挙げられています。
ESHREでも、妊娠を希望する男性には飲酒量を少なくすることが勧められています。
一方、
少量~中等量の飲酒まで、
「飲んだら必ず精子が悪くなる」
と結論づけられているわけではありません。
飲酒は「ゼロか100か」ではなく、まず量を見る
たとえば、
週末にビールを1杯飲む方。
毎晩数杯飲む方。
一度に大量に飲む方。
では、同じ「飲酒あり」でも意味が違います。
妊活中は、
「酒を飲んでいる・飲んでいない」
だけではなく、
どのくらいの量を、どのくらいの頻度で飲んでいるか
を見てみましょう。
特に、
毎日飲む。
一度に大量に飲む。
飲まないと眠れない。
休日は昼から飲む。
という状態なら、妊活だけでなく健康全体のためにも見直す価値があります。
「適量なら妊活に良い」と考える必要もありません
赤ワイン。
日本酒。
ビール。
などについて、
「少しなら血流にいい」
という話を聞くことがあります。
でも、
妊娠率を上げるためにお酒を飲む必要はありません。
もともと飲まない男性が、
妊活のために飲み始める必要もありません。
飲酒習慣がある場合は、
まず量を減らせるところがないか考える。
それくらいが現実的です。
禁煙や節酒を始めたら、すぐ精子が変わる?
精子は、
今日の生活習慣だけで、
明日すべて新しい状態へ入れ替わるわけではありません。
精子が作られ成熟していくまでには時間がかかります。
そのため、
禁煙した翌日に、
精液検査が大きく改善する。
というものではありません。
男性側の身体づくりは、
数日単位ではなく、数週間から数か月という目線で考える
ことが大切です。
だからこそ、
「精液検査が悪かったから、採精前3日だけ禁酒・禁煙」
というより、
できるなら日常の習慣から見直すことをおすすめします。
「採卵が決まってから」ではなく、今から始めてもいい
体外受精を予定しているご夫婦では、
女性側の採卵日が決まってから、
「夫も何かした方がいい?」
となることがあります。
でも、
男性側の生活習慣を見直すのは、
採精日の直前だけでなくても構いません。
これから採卵へ進む。
数か月後に治療を予定している。
まだタイミング法や人工授精中。
という段階から、
喫煙。
飲酒。
睡眠。
食事。
運動。
体重。
について確認しておくことには意味があります。
ただし「精子のために完璧な生活」を要求しない
ここも大切です。
禁煙。
禁酒。
早寝。
運動。
ダイエット。
サプリ。
温度管理。
全部を一度に夫へ求めると、
妊活そのものを嫌になってしまうことがあります。
特に、
「あなたの精子が悪いから生活を変えて」
という伝え方になると、
男性側は責められていると感じるかもしれません。
生活改善は、
夫を直すため
ではなく、
二人ともできることを一つずつ増やすため
と考えてみましょう。
優先順位をつけるなら、まず喫煙から
何から変えればよいかわからない場合、
喫煙している男性なら、
まず禁煙について考える価値が高い
と思います。
喫煙については、
精子濃度。
運動率。
形態。
DNA損傷。
などとの関連を示すデータが比較的多くあります。
全部を一気に変えるより、
まず、
「タバコをどうする?」
から話し合う。
その次に、
飲酒量。
睡眠。
食事。
などを考えていく方法でも構いません。
禁煙できない=妊活への気持ちがない、とは限りません
妻から見ると、
「子どもが欲しいと言うのに、なぜタバコをやめられないの?」
と思うことがあります。
でも、ニコチンには依存性があります。
「身体に悪いとわかれば、その日から簡単にやめられる」
とは限りません。
本人の意思の弱さだけで説明せず、
必要なら、
禁煙外来。
医師。
薬剤師。
など専門家の力を借りる方法も考えてください。
禁煙は根性だけでするものではありません。
夫婦で話すなら「あなた」より「私たち」
たとえば、
「あなたの精子のためにタバコやめて」
より、
「妊活で二人にできることを一回整理してみない?」
の方が入りやすいことがあります。
また、
「お酒飲みすぎ」
ではなく、
「毎日じゃなくて、飲まない日を一緒につくってみない?」
という言い方もあります。
妊活を、
夫の生活習慣を監視する時間にしないことも大切です。
精液検査を一度受けておくことも大切です
生活習慣を見直すことは大切ですが、
「タバコをやめれば精液検査はしなくてもいい」
ということではありません。
男性不妊には、
精索静脈瘤。
ホルモン異常。
精路の問題。
遺伝学的な要因。
など、生活習慣だけでは説明できない原因もあります。
まず精液検査。
必要に応じて男性不妊を専門とする泌尿器科で評価する。
そのうえで、
改善できる生活習慣も見直す。
という順番が大切です。
数値が悪かったとき、喫煙だけを原因にしない
精液検査で、
精子濃度が低い。
運動率が低い。
形態が良くない。
と言われると、
「タバコのせいだ」
と思ってしまうことがあります。
でも、精液所見には多くの要因が関係します。
さらに精液検査には変動もあります。
ですから、
「あなたがタバコを吸ったからこの結果になった」
と決めつけないでください。
必要な再検査や医学的評価を受けながら、
その中で、
「改善できるものは改善してみよう」
と考えます。
男性不妊に対する鍼灸の研究もあります
男性側の精子所見と鍼灸についても研究されています。
たとえば、重度の乏精子・精子無力症を対象とした無作為化比較試験では、
鍼灸群で、
運動精子の割合が偽鍼群より有意に改善した
という結果が報告されています。
また2024年の小規模な無作為化臨床試験では、電気鍼を併用した群で、
精子運動率や総運動精子数(TMSC)の改善
が報告されました。
一方で、
男性不妊に対する鍼灸研究はまだ小規模なものが多く、
「鍼灸を受ければ精子が必ず改善する」
「鍼灸で妊娠率が上がる」
と断定できる段階ではありません。
それでも、
男性側の生殖機能についても、鍼灸が研究されている
ことは知っておいてよいと思います。
妊活に鍼灸を取り入れるなら「生活改善の代わり」ではありません
ここは当院でも大切にしている考え方です。
鍼灸を受けているから、
タバコを吸っても大丈夫。
お酒をたくさん飲んでも大丈夫。
というものではありません。
生活習慣で改善できるところは改善する。
必要な検査や治療は医療機関で受ける。
そのうえで、
鍼灸を身体づくりの一つとして組み合わせる
という考え方です。
女性側も「夫の精子だけ」を心配し続けなくていい
男性側の精液検査に問題があると、
妻が、
禁煙した?
お酒何杯飲んだ?
サプリ飲んだ?
何時に寝た?
と管理役になってしまうことがあります。
でも、それでは女性側の負担がさらに増えてしまいます。
不妊治療中は、
自分自身も、
採卵。
胚移植。
ホルモン治療。
仕事。
睡眠。
などで身体に負担がかかっています。
当院では、
男性側の生活習慣について整理するだけではなく、
妊活を支えている女性側の睡眠・疲労・胃腸・冷えやほてり・身体の緊張なども一緒に整えていくこと
を大切にしています。
ご夫婦の妊活だからこそ、
妻一人が全部を背負わないようにしたいところです。
鍼灸を妊活へ取り入れるメリットは「二人の治療を支える身体づくり」
妊活で鍼灸を受ける意味は、
「妊娠させるツボを刺激する」
ことだけではありません。
不妊治療中には、
睡眠が乱れる。
胃腸が弱る。
肩や腰がつらい。
身体に力が入る。
疲労が抜けない。
冷えやほてりが気になる。
といった状態が重なることがあります。
さらに、ARTと鍼灸を併用した研究では、臨床妊娠率や着床率が高かった結果を示す報告や統合解析もあります。
すべての研究結果が一致しているわけではありませんが、
必要な生殖医療を受けながら、妊活を続ける身体全体を整える方法として鍼灸を取り入れる
ことには、十分検討する価値があると当院では考えています。
ご夫婦で今日からできる3つのこと
1.喫煙しているなら、まず禁煙について話す
いきなり、
「明日から絶対ゼロ」
と決められなくても構いません。
本人がどのくらい吸っているか。
過去に禁煙したことがあるか。
どんな場面で吸いたくなるか。
から確認してみましょう。
必要なら専門的な禁煙支援も利用します。
2.一週間の飲酒量を書き出す
「そんなに飲んでいない」
と思っていても、
毎日少しずつ飲んでいることがあります。
まず量を把握します。
休肝日を増やす。
一回量を減らす。
など、現実的な方法を考えます。
3.夫婦それぞれ一つずつ変える
夫だけに、
禁煙。
節酒。
早寝。
を要求するのではなく、
たとえば、
夫は禁煙に取り組む。
妻は寝る前の検索時間を減らす。
というように、
二人とも一つずつ
にしても構いません。
男性の生活習慣を見直すことは「責任探し」ではありません
不妊治療では、
どうしても、
「原因はどっち?」
という考え方になりやすくなります。
でも、
男性の喫煙や飲酒を見直す目的は、
夫を責めることではありません。
今から変えられる可能性があるものを、
一つずつ確認するためです。
精液検査を受ける。
必要なら泌尿器科へ行く。
禁煙する。
飲酒量を減らす。
睡眠を見直す。
そして必要に応じて、
鍼灸など身体づくりを取り入れる。
「誰が悪かったか」ではなく、「二人で次に何ができるか」へ目を向ける。
それが、妊活を長く続けていくうえでも大切だと思います。
生活習慣の話で夫婦げんかになってしまう方へ
医学的に、
「タバコはやめた方がいい」
とわかっても、
実際に夫へどう伝えるかは別の問題です。
「私ばかり頑張っている」
「何度言っても変えてくれない」
という思いが積み重なると、
生活習慣の話が、
夫婦の努力量を比べる話へ変わってしまうことがあります。
このテーマの続きは、8月25日の
「夫婦で生活習慣を見直すときに責め合わない話し方」
で、
・禁煙をお願いするとき
・飲酒量を減らしてほしいとき
・相手が「大丈夫」と聞いてくれないとき
・自分ばかり頑張っていると感じたとき
の伝え方を具体的にお伝えします。
生活習慣を変えることも大切。
でも、
そのために夫婦の関係まで消耗させないこと
も同じくらい大切です。
【参考・出典】
世界保健機関(WHO)「不妊の予防・診断・治療に関するガイドライン」
世界保健機関(WHO)「不妊症」
米国生殖医学会(ASRM)「タバコ・マリファナ使用と不妊に関する委員会見解」
米国生殖医学会(ASRM)「自然妊娠の可能性を最適化するための委員会見解」
米国生殖医学会(ASRM)「反復流産に関する委員会見解 2026」
欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)「男性の妊孕性」
Fertility and Sterility「重度乏精子・精子無力症男性に対する鍼治療の無作為化プラセボ対照試験」
Medical Acupuncture「男性不妊患者の精子運動率・総運動精子数に対する電気鍼の効果」
ご夫婦で取り組む妊活を、身体づくりから支えたい方へ
「夫の精液検査が気になる」
「禁煙や飲酒について、どう話したらいいかわからない」
「病院での治療だけでなく、夫婦でできる身体づくりも考えたい」
そんな方もいらっしゃると思います。
ロータスリーフ 蓮心はり灸堂では、
女性側の、
・現在の妊活・不妊治療の段階
・採卵や胚移植の予定
・月経
・睡眠
・胃腸
・冷えやほてり
・疲労
・身体の緊張
・日々の生活習慣
などを確認しながら、その方に合った妊活中の身体づくりを行っています。
妊活に鍼灸を取り入れるメリットは、
単に「冷えを取る」ということだけではありません。
治療の経過と身体の変化を継続して確認しながら、不妊治療を続ける身体全体を整えていけること
も大きな特徴です。
また、体外受精などの生殖補助医療に鍼灸を併用した研究では、臨床妊娠率や着床率について前向きな結果も報告されています。
病院で必要な検査・治療を受ける。
ご夫婦で改善できる生活習慣を見直す。
そして鍼灸で、治療を続ける身体を整えていく。
それぞれの良さを組み合わせながら妊娠を目指すこと
を当院では大切にしています。
なお、当院は女性専用を基本としております。
男性への施術は、既存患者様からのご紹介がある場合、またはご夫婦でご来院いただく場合に限りご相談を承っています。
男性側の精液検査や男性不妊の医学的評価については、男性不妊を専門とする泌尿器科・生殖医療機関での確認をおすすめします。
「夫婦で何から見直したらよい?」
「今の不妊治療と並行して鍼灸を取り入れたい」
という方は、LINEからお気軽にご相談ください。

