胚移植の日が近づいてくると、
「当日は何をするんだろう」
「痛くないかな」
「移植したあと、歩いても大丈夫?」
「トイレに行ったら胚が出てしまわない?」
と、いろいろなことが気になってくると思います。
採卵とは違い、胚移植は比較的短時間で行われることが多い処置です。
ただ、初めて経験する方にとっては、
「何をされるのかわからない」
ことそのものが、不安につながります。
そこで今回は、胚移植当日の一般的な流れを、来院前から帰宅後まで順番に見ていきましょう。
なお、胚移植の方法や来院時間、膀胱に尿をためる必要があるか、服薬方法などは医療機関によって異なります。
実際の当日は、通院している医療機関からの指示を最優先にしてください。
そもそも胚移植とは?
胚移植とは、体外受精や顕微授精によって得られた胚を、細いカテーテルを使って子宮内へ戻す処置です。
大きく分けると、
・採卵した周期に行う「新鮮胚移植」
・凍結保存していた胚を融解して行う「凍結融解胚移植」
があります。
現在は、子宮内膜の状態や卵巣刺激後の身体の状態、治療計画などを考慮して凍結融解胚移植が選ばれることも多くあります。
どちらの場合も、
できるだけ適切なタイミングで、胚を子宮内の適切な位置へ戻す
ことが胚移植の基本です。
胚移植当日の大まかな流れ
医療機関によって細かな違いはありますが、一般的には次のように進みます。
1.来院・受付
2.本人確認・胚の状態について説明
3.移植前の準備
4.診察台へ移動
5.超音波で子宮の位置を確認
6.細いカテーテルで胚を子宮内へ移植
7.カテーテルを確認
8.必要に応じて少し休憩
9.帰宅
一つずつ詳しく見ていきましょう。
1.来院したら、まず本人確認や胚の確認をします
胚移植では、
「どなたの胚を移植するのか」
という確認が非常に重要です。
そのため、移植前には氏名や生年月日などによる本人確認が行われます。
培養室でも、患者さんの情報と移植する胚が一致しているか厳重に確認されています。
2026年に改訂された欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)のIVF培養室に関する指針でも、胚移植直前には患者さん、診療記録、培養皿などを照合する二重確認が求められています。
医療機関によっては、このタイミングで培養士さんから、
・移植する胚の数
・胚の発育段階
・胚のグレード
・融解後の状態
などについて説明を受けることもあります。
緊張して内容が頭に入らないこともあると思います。
わからないことがあれば、
「このグレードはどういう意味ですか?」
「今日移植する胚の状態をもう一度教えてください」
と聞いて大丈夫です。
2.「膀胱に尿をためて来てください」と言われることがあります
胚移植当日は、
「○時から水を飲んでください」
「トイレに行かずに来てください」
などと指示される場合があります。
これは、腹部から超音波を当てながら胚移植を行う際、ある程度膀胱に尿がたまっている方が子宮を確認しやすくなるためです。
また、子宮の向きによってはカテーテルを通しやすくなる場合もあります。
ただし、
尿をどの程度ためる必要があるかは医療機関によって異なります。
「いっぱいにしなければ」と無理に水を飲みすぎて、移植前から苦しくなってしまう必要はありません。
当日の飲水について具体的な指示がある場合は、その方法に従いましょう。
我慢できないほど膀胱がつらくなった場合も、勝手に我慢し続けずスタッフの方に伝えてください。
3.胚移植は麻酔を使わず行われることが一般的です
採卵を経験したあとだと、
「移植も麻酔をするのかな?」
と思う方もいらっしゃいます。
胚移植は、採卵とは処置の内容が異なります。
一般的には、細く柔らかいカテーテルを子宮内へ通して胚を戻すため、通常は麻酔や鎮静を必要としないことが多い処置です。
ただし、子宮頸部の状態や子宮の向きなどによっては、通常より処置に時間がかかる場合もあります。
痛みの感じ方にも個人差がありますので、
「痛かったら我慢しなければ」
と思う必要はありません。
つらいと感じたら、遠慮せずスタッフの方に伝えましょう。
4.診察台では、まず子宮の位置を確認します
移植時には、内診のような姿勢になります。
腟から腟鏡を入れて子宮の入口である子宮頸部を確認し、必要に応じて頸部周辺の粘液などを整えます。
そのうえで、腹部から超音波を当てながら子宮の位置を確認します。
超音波の画面を一緒に見ることができる医療機関もあります。
「今から胚を戻しますね」
などと声をかけてもらいながら進むこともあり、画面を見ているうちに、
「思っていたより早かった」
と感じる方も少なくありません。
5.細いカテーテルを使って胚を子宮内へ戻します
準備が整ったら、培養室から移植する胚が運ばれてきます。
胚はごく少量の培養液と一緒に、細く柔らかいカテーテルへ入れられます。
そのカテーテルを子宮頸部から子宮内へゆっくり進め、超音波で位置を確認しながら胚を戻します。
胚を置く場所を確認しながら行うため、腹部超音波によるガイド下での胚移植は広く用いられています。
実際に胚を子宮内へ戻す操作そのものは、比較的短時間で終わることが一般的です。
6.移植後はカテーテルの中も確認します
胚を戻したあと、
「これで終わりです」
とすぐに処置が終了するだけではありません。
使用したカテーテルは培養室で確認され、
胚がカテーテル内に残っていないか
をチェックします。
まれに胚がカテーテル内に残ることがありますが、その場合は再度移植操作を行うことがあります。
こうした確認も含めて、胚移植は医師と培養士などが連携しながら行われています。
「トイレに行ったら胚が出てしまう」は心配しなくて大丈夫です
胚移植後、とても多い心配の一つが、
「すぐ立っても大丈夫ですか?」
「トイレに行ったら胚が出てきませんか?」
というものです。
結論からいうと、
移植後に立ったり、歩いたり、排尿したりしたことで胚がそのまま外へ落ちてしまうと考える必要はありません。
胚は子宮内へ移されています。
尿が通る尿道と、胚を移植する子宮は別の場所です。
そのため、
「トイレを我慢した方が着床しやすい」
ということもありません。
移植のために膀胱へ尿をためていた場合は、処置終了後にトイレへ行って大丈夫です。
胚移植後はずっと横になっていた方がいい?
「移植した胚が動かないように、その日はずっと寝ていた方がいいのでは?」
と思う方もいらっしゃいます。
しかし、胚移植後の長時間の安静によって妊娠率が上がるという根拠はなく、移植後のベッド上安静は推奨されていません。
処置が終わり、体調に問題がなければ、歩いて帰宅することもできます。
もちろん、
「何をしてもいい」
という意味ではありません。
移植直後にあえて激しい運動をしたり、自分を追い込むような活動をする必要もありません。
大切なのは、
「動いたらダメ」と身体を固めすぎず、無理のない範囲で普段に近い生活を送ること
です。
移植当日は仕事を休んだ方がいい?
これもよく聞かれる質問です。
デスクワークなど日常的な活動であれば、必ず仕事を休まなければならないというものではありません。
ただ、
・長時間立ちっぱなしになる
・重い物を何度も持つ
・暑い環境で身体を酷使する
・移植後も休憩がとれない
・仕事そのものが強いストレスになっている
という場合は、可能であれば少し予定に余裕を持たせてもよいでしょう。
妊娠率を上げるために休むというより、
「移植という大切な一日を、無理なく過ごすために休む」
と考える方がよいと思います。
休める方はゆっくり過ごす。
仕事のある方は、必要以上に不安にならず普段に近い生活をする。
どちらが正解ということではありません。
移植後のお薬は自己判断でやめないでください
凍結胚移植では、
・エストロゲン製剤
・プロゲステロン製剤
などを使用している方も多いと思います。
新鮮胚移植でも、黄体ホルモンを補う薬が処方されることがあります。
移植が終わると、
「もう胚を戻したから薬は必要ないのかな?」
と思うかもしれませんが、処方されている薬は医療機関から指示された期間・方法で続けることが大切です。
症状がないからと自己判断で減らしたり、中止したりしないようにしてください。
飲み忘れや、腟剤を入れ忘れた場合の対応についても、医療機関ごとに指示が異なります。
気づいた時点で、通院先へ確認しましょう。
少量の出血や違和感があっても、それだけで結果はわかりません
胚移植後に、
・少量の出血
・下腹部の違和感
・軽い痛み
・おりものの変化
などを感じることがあります。
腟鏡やカテーテルによる刺激などで、少量の出血がみられる場合もあります。
そのため、
「血が出たから移植に失敗した」
とすぐに考える必要はありません。
反対に、
「何も症状がないから着床していない」
とも判断できません。
移植直後の身体の感覚だけで、妊娠の成立を判断することはできません。
ただし、
・強い腹痛が続く
・出血量が多い
・発熱がある
・息苦しさがある
・急激にお腹が張る
・体調が明らかに悪化している
など、普段と違う強い症状がある場合は、自己判断せず通院している医療機関へ相談してください。
移植後ほど「何をしたら着床する?」と考えてしまいます
胚を戻したあとは、
「何を食べればいい?」
「ずっと温めた方がいい?」
「歩かない方がいい?」
「パイナップルを食べるといい?」
「着床にいいツボは?」
と、急にいろいろなことが気になってくるものです。
それだけ、
「ここまで来たのだから、できることは全部したい」
という気持ちがあるのだと思います。
でも、移植後に何か特別な行動を一つ加えることで、着床を確実に起こせる方法はありません。
この時期こそ、
・処方薬を指示通り使用する
・無理のない生活をする
・極端な食事制限をしない
・睡眠を確保する
・体調が悪いときは休む
といった基本を大切にしましょう。
新しいサプリメントや健康食品などを、移植をきっかけに自己判断で急に増やす必要もありません。
移植当日の鍼灸はどう考える?
胚移植の前後に、
「鍼灸を受けた方が着床しやすくなりますか?」
と聞かれることがあります。
現在の研究では、胚移植の前後に鍼灸を行えば妊娠率や出生率が必ず上がると断定できるものではありません。
そのため当院でも、
「移植当日に鍼灸を受ければ着床する」
という考え方では施術を行っていません。
大切にしているのは、
・治療が続いて緊張している
・睡眠が浅くなっている
・身体に力が入り続けている
・胃腸の調子が落ちている
・冷えや疲労感が強い
といった、その方の体調を確認することです。
病院での胚移植を中心に置きながら、その前後をできるだけ落ち着いた状態で過ごせるよう身体を整える。
妊活中の鍼灸は、そのような補助的なサポートとして考えています。
胚移植の日に一番大切にしてほしいこと
胚移植の日が近づくと、
「ちゃんとできるかな」
「何か失敗しないかな」
と不安になります。
でも、胚移植は、
あなたが上手にできるかどうかを試される日ではありません。
尿のため具合が少し違った。
緊張して身体に力が入った。
帰りに少し歩いた。
仕事を休めなかった。
そんなこと一つひとつを、
「これでダメだったらどうしよう」
と結果につなげなくて大丈夫です。
当日は、
医療機関から言われていることを確認して、処方薬を忘れず、予定より少し余裕を持って行動する。
それだけでも十分です。
移植を迎えるまでに、採卵や薬、通院など、すでにたくさんのことを積み重ねてきています。
胚移植の日まで来た自分の身体に、これ以上「完璧」を求めすぎないことも大切です。
当日をもう少し安心して迎えるために
実際に移植日が近づくと、
「どんな服で行けばいい?」
「何を持って行く?」
「前日の食事は?」
「当日の朝はどう過ごしたらいい?」
と、今度は具体的な準備が気になってくると思います。
このテーマの続きは、8月6日の
「胚移植前夜と当日に整えたい持ち物・服装・心の準備」
で、より実践的にお伝えします。
医学的な流れがわかったら、次は「当日を少しでも落ち着いて迎えるための準備」を一緒に整理していきましょう。
【参考・出典】
欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)「IVF培養室における適正実施のための改訂ガイドライン 2026」
欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)「IVF・ICSIにおける移植胚数に関するガイドライン」
米国生殖医学会(ASRM)「胚移植の実施に関するガイドライン」
Guy’s and St Thomas’ NHS Foundation Trust「IVF治療:胚を子宮へ移植するまで」
Newcastle Hospitals NHS Foundation Trust「IVF・ICSI治療を受ける患者さんのための情報」
胚移植に向けて、心と身体を整えたい方へ
胚移植が決まると、
「ここまで来たから、できるだけいい状態で迎えたい」
と思う一方で、
「冷えていたらよくない?」
「運動は控えた方がいい?」
「食事はこれで大丈夫?」
と、日常生活の小さなことまで気になってしまうことがあります。
ロータスリーフ 蓮心はり灸堂では、病院での治療方針や服薬を大切にしながら、
・睡眠
・冷え
・疲労
・胃腸の状態
・身体の緊張
・治療中の不安
・日々の生活リズム
などを確認し、その方の治療段階に合わせて身体づくりをサポートしています。
胚移植のために「特別な身体」を作る必要はありません。
むしろ、
今の身体に無理がかかりすぎていないか。
移植の日まで、少しでも穏やかに過ごせる状態をつくれるか。
という視点を大切にしています。
「移植日が決まったけれど、どう過ごせばよいのか不安」
「今の身体の状態を一度相談しておきたい」
という方は、LINEからお気軽にご相談ください。

