受精したと聞いたとき、
「ここまで来た」
と少し希望が見えたように感じていた。
それなのに、
「途中で発育が止まりました」
「今回は胚盤胞まで育ちませんでした」
と聞いたとき。
その場では説明を聞いていても、家に帰って一人になった途端、
「どうしてだろう」
「私に原因があったのかな」
という思いが何度も浮かんでくることがあります。
8月1日の「受精卵が育たないときに知っておきたいこと」では、胚の発育が止まる背景には複数の要因があり、一つの生活習慣や女性側だけの問題として説明できるものではないことをお伝えしました。
それでも、
医学的に理解できることと、気持ちが納得できることは別です。
「自分のせいではないかもしれない」
と頭では分かっていても、
「でも、もっと何かできたのでは」
という思いが消えない夜もあると思います。
今日は原因を探すのではなく、そんな夜の心について考えてみましょう。
不妊治療では「自分を責める材料」が増えやすい
不妊治療では、さまざまな結果が数字で伝えられます。
採卵できた数。
成熟卵の数。
受精した数。
胚盤胞になった数。
胚のグレード。
子宮内膜の厚さ。
ホルモン値。
一つひとつは、治療方針を考えるための大切な医療情報です。
ところが治療を受けている本人にとっては、いつの間にか、
「身体の成績表」のように感じてしまうことがあります。
「今回は3個しか採れなかった」
「受精したのに1個も育たなかった」
という結果が、
「私の身体が悪い」
「私はちゃんとできていない」
という、自分自身への評価に変わってしまうのです。
でも、
治療結果は、あなた自身の価値を評価する数字ではありません。
結果が思うようにならなかったからといって、あなたが足りなかったわけではありません。
「もっと○○していれば」が止まらなくなるとき
結果を聞いたあと、
「もっと早く寝ていれば」
「仕事を休んでいれば」
「もっと身体を温めていれば」
「甘いものを食べなければ」
「あのサプリをもっと早く飲んでいたら」
と、過去の自分を振り返ることがあります。
これは、
何か原因を見つけることで、理解できない結果を理解しようとする心の働き
でもあります。
原因がわからないままでは、不安です。
だから、
「あれが原因だったのかもしれない」
と理由を一つ見つけられれば、一瞬だけ納得できたような気持ちになることがあります。
ただ、その理由を自分の行動に求め続けると、
「私が悪かった」
という結論にたどり着きやすくなってしまいます。
「事実」と「自分への評価」を分けてみる
自分を責め始めたときは、頭の中に浮かんでいる言葉を少し分けてみましょう。
たとえば、
事実
「今回は受精した胚が胚盤胞まで育たなかった」
そして、
そこから自分が考えていること
「私の卵子が悪い」
「もっと努力すれば育ったはず」
「私の身体は妊娠できない」
この2つは同じではありません。
「今回は胚盤胞まで育たなかった」
ということは事実です。
しかし、
「だから私はダメ」
という部分は、結果を受けて心の中に生まれた解釈です。
つらいときほど、この二つが一緒になってしまいます。
そんなときは、
「今わかっている事実はどこまでだろう?」
と一度だけ考えてみてください。
すぐに前向きになる必要はありません。
ただ、自分を責める言葉まで「事実」にしないこと。
それだけでも違います。
「生活習慣が関係する」と「今回の原因だった」は別の話
妊活について調べると、
「睡眠が大切」
「食事を整えましょう」
「喫煙は避けましょう」
「適度な運動を」
といった情報がたくさん出てきます。
もちろん、健康を維持するために生活習慣を整えることは大切です。
しかし、
健康に関係する生活習慣があることと、今回胚が育たなかった原因を特定できることは別の話です。
昨日少し夜更かしした。
仕事が忙しい日があった。
冷たいものを食べた。
運動できなかった。
その一つを取り出して、
「だから胚が育たなかった」
と考えることはできません。
身体づくりは、
過去の自分を責めるためにするものではなく、これからの自分の健康を支えるために行うもの
と考えてみてください。
悲しい日は、無理に前向きにならなくてもいい
結果がうまくいかなかったとき、
「次があるから」
「まだチャンスはあるよ」
「考えても仕方ないよ」
と励まされることがあります。
相手に悪気がないことは分かっていても、
「今はそう思えない」
と感じることもあるでしょう。
悲しいときに、無理に前向きな言葉へ置き換える必要はありません。
「悲しい」
「悔しい」
「どうして私なんだろう」
「期待していた分、つらい」
まずは、それが今の気持ちなのだと認めるだけでも構いません。
不妊や不妊治療が心理的な負担につながり、不安や抑うつ、自尊感情の低下などを伴うことがあることは、世界保健機関(WHO)や欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)からも指摘されています。
つらく感じること自体が、弱さを意味するわけではありません。
「泣いたら身体によくない」と我慢しなくて大丈夫
妊活中は、
「ストレスをためない方がいい」
という言葉もよく耳にします。
そのため、
「落ち込んだら妊活によくない」
「泣いたら身体に悪い」
と、悲しい気持ちそのものを抑え込もうとする方もいます。
でも、人の感情を完全にコントロールすることはできません。
悲しい結果を聞けば、悲しくなることがあります。
悔しいことがあれば、泣くこともあります。
その気持ちまで、
「こんな自分ではダメ」
と評価しなくてもいいのです。
悲しみをなくすことより、悲しい自分をさらに責めないこと。
今夜は、それくらいを目標にしてみてもよいと思います。
SNSや検索から少し離れてもいい
受精卵が育たなかったあと、
「胚盤胞まで育たない 原因」
「卵子の質 改善」
「40歳 胚盤胞」
「次の採卵 できること」
と検索が止まらなくなることがあります。
情報を探すこと自体が悪いわけではありません。
次の治療について知ることが安心につながる場合もあります。
ただ、夜遅くまで検索を続けていると、
「この人は5個胚盤胞になっている」
「この人は同じ年齢なのに結果がいい」
「私は何が違うんだろう」
と、いつの間にか情報収集が自分との比較に変わることがあります。
そんなときは、
今日答えを出さなくてもいい情報は、明日に置いておく
という選択もあります。
スマートフォンを閉じたからといって、治療の可能性が下がるわけではありません。
誰かの成功例を、自分の未来の答えにしなくていい
SNSには、
「採卵○回目で妊娠しました」
「このサプリを始めて胚盤胞が増えました」
「生活を全部変えたら結果がよくなりました」
といった経験談がたくさんあります。
それを見ると、
「私も同じことをしなければ」
と思うかもしれません。
でも、不妊治療は、
年齢、卵巣予備能、精子所見、治療方法、採卵数、受精方法、胚発育など、一人ひとり条件が異なります。
誰かの経験は、その人に起きた大切な経験です。
けれど、
その人の成功までの道筋が、あなたが必ず通らなければならない道ではありません。
今夜は、誰かと自分を比べて答えを探す時間を少し短くしてみてもよいでしょう。
今夜できる「3つだけ」のこと
気持ちが大きく揺れている夜に、
「生活を改善しよう」
「体質を変えよう」
と、たくさんのことを始める必要はありません。
今夜は3つくらいで十分です。
1.今日の結果について検索する時間を決める
「絶対検索しない」
と禁止すると、かえって気になってしまうことがあります。
たとえば、
「あと10分だけ」
「このページを読んだら今日は終わり」
と区切ってみましょう。
そして、気になったことがあればメモしておきます。
すべて今日調べなくても、次の診察で確認できることもあります。
2.温かいものを一杯飲んで、身体を休める
白湯やカフェインを含まない飲み物など、自分がほっとできるものを少し。
これは、
「温かいものを飲めば卵子の質が上がる」
という意味ではありません。
今日一日、緊張していた身体に、
「もう休んでいい時間」
と知らせるための小さな区切りです。
真夏は無理に熱いものを飲む必要もありません。
自分が心地よいと感じる温度で構いません。
3.今日だけは「次に何をするか」を決めない
結果を聞いたその日に、
「次の採卵はいつ?」
「サプリを変えよう」
「病院を変えた方がいい?」
と、すぐ次の行動を決めたくなることがあります。
もちろん、すぐに動く方が気持ちが楽になる方もいます。
でも、急いで決める必要のないことであれば、
「今日は決めない」
という選択もあります。
気持ちが少し落ち着いてから考えることと、今日答えを出すことは同じではありません。
東洋医学では「考えすぎて身体まで疲れる」状態にも目を向けます
東洋医学では、心と身体を完全に別々のものとして考えません。
強い緊張や不安が続き、
・胸や喉がつかえる感じがする
・ため息が増える
・肩や首に力が入る
・眠りが浅くなる
・食欲が落ちる
・お腹の調子が乱れる
といった状態があるときには、
肝鬱気滞(かんうつきたい)=気の巡りが滞り、緊張や詰まり感が出やすい状態
として捉えることがあります。
一方、
考え続けて食欲が落ちたり、疲れが抜けにくくなったりする場合には、
脾虚(ひきょ)=胃腸の働きや、身体を支える力が弱っている状態
という視点で見ることもあります。
ただし、
「自分を責めるのは肝鬱だから」
という意味ではありません。
つらい出来事への感情を、体質のせいにする必要もありません。
東洋医学では、
今の気持ちが身体にどう現れているか
まで含めて、その人全体を見るという考え方をします。
夜に身体の力を抜く簡単な方法
布団に入っても考え事が止まらないときは、
「寝なければ」
と頑張るほど身体に力が入ることがあります。
そんなときは、呼吸を整えることから始めてみましょう。
鼻から自然に息を吸い、
少し長めに息を吐く。
「4秒吸って8秒吐く」
など厳密に数えなくても構いません。
吸うより吐く方を少し長めにする
くらいで十分です。
肩を下ろし、
奥歯を噛みしめていたら少し緩めます。
眠れなくても、
「今は身体を横にして休ませている」
くらいに考えてみてください。
一晩うまく眠れなかったことが、今回の治療結果を決めるわけではありません。
明日から完璧な妊活を始めなくてもいい
結果が思うようにならなかったときほど、
「次こそは完璧にしよう」
と思います。
食事。
睡眠。
運動。
温活。
サプリメント。
鍼灸。
仕事の調整。
全部できれば結果が変わるような気がしてしまいます。
でも、身体づくりは、
100点を取るための妊活ではありません。
今の生活の中で負担になっていることを一つ見つけて、できるところから整える。
それくらいでよいと思います。
たとえば、
「夜の検索時間を30分短くする」
「朝食を抜かない」
「疲れている日は予定を一つ減らす」
そんな小さな見直しでも構いません。
気持ちのつらさが長く続いているときは
不妊治療では、不安や落ち込みを抱えること自体は珍しいことではありません。
WHOも、不妊が心理的・社会的な負担となり、ストレス、不安、抑うつ、自尊感情の低下などにつながることがあるとしています。
また、ESHREは不妊治療の過程を通じて、患者さんの心理社会的なニーズに目を向け、必要に応じた支援を行うことを勧めています。
もし、
・何週間もほとんど眠れない
・食事がとれない状態が続く
・仕事や日常生活が手につかない
・強い不安や落ち込みが続いている
・治療のことを考えるだけで日常生活が大きく乱れる
といった状態が続いている場合は、一人で何とかしようとせず、主治医や医療機関の相談窓口、心理職などへ相談することも選択肢です。
心のケアも、不妊治療を続けるうえで大切なサポートの一つです。
今回の結果と、あなた自身を切り離して考えてみる
受精卵が育たなかった。
これは、とてもつらい結果です。
悲しくないふりをする必要もありません。
「次があるから」と急いで気持ちを切り替える必要もありません。
ただ、
「胚が育たなかった」ことと、
「自分がダメだった」ことだけは、同じにしないでください。
治療の結果には、自分ではコントロールできないことがたくさんあります。
それでも治療を続けていると、すべてを自分の責任のように感じてしまうことがあります。
今夜は、
「私が悪かったのかもしれない」
という言葉が浮かんだら、
「そう思うくらい、今回の結果がつらかったんだな」
と、少し違う言葉に置き換えてみてください。
答えを出さなくても構いません。
今日一日を終えて、身体を休める。
今夜はそれだけでも十分です。
【参考・出典】
世界保健機関(WHO)「不妊症」
世界保健機関(WHO)「不妊とともに生きる」
世界保健機関(WHO)「不妊症に関する初の世界ガイドライン」
欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)「不妊・生殖補助医療における日常的な心理社会的ケア」
Human Reproduction「不妊・生殖補助医療における心理社会的ケアのガイドライン」
治療のことを考えると、心も身体も休まらない方へ
不妊治療では、身体の状態だけでなく、
「結果を待つ時間がつらい」
「次の治療のことが頭から離れない」
「眠ろうとしても考えてしまう」
という心の負担が、睡眠や食欲、胃腸の調子、身体の緊張などに表れることがあります。
ロータスリーフ 蓮心はり灸堂では、
「前向きにならなければ」
と気持ちを変えることを求めるのではなく、今どのような状態で治療を続けているのかを伺いながら、
・睡眠
・冷えやほてり
・疲労
・胃腸の状態
・身体の緊張
・生活リズム
・治療に伴う心身の負担
などを一緒に整理しています。
鍼灸は、不妊治療の結果を保証するものでも、心のつらさをすべて解決するものでもありません。
それでも、
治療を頑張り続けている身体を少し休ませたい。
今の自分に合った整え方を一緒に考えたい。
そんなときに、身体の側からお手伝いできることがあります。
「うまく言葉にできないけれど、今の状態を一度相談したい」
という方も、LINEからお気軽にご相談ください。

