「子宮腺筋症がありますね」
婦人科や不妊治療の診察で突然そう言われ、
「これは子宮内膜症とは違うの?」
「妊娠しにくくなるの?」
「体外受精をしても難しい?」
と不安になった方もいらっしゃると思います。
インターネットで調べると、
「着床しにくい」
「流産しやすい」
「妊娠は難しい」
といった言葉も目に入り、さらに心配になるかもしれません。
確かに、子宮腺筋症は妊娠や不妊治療の結果と関連することが報告されています。
しかし、
子宮腺筋症がある=妊娠できない、という意味ではありません。
病変の広がり、年齢、卵巣予備能、胚の状態、子宮内膜症の合併などによって状況は一人ひとり異なります。
今回は、妊活中に知っておきたい子宮腺筋症の基本を整理します。
子宮腺筋症とは?
子宮は、大きく分けると、
・内側の「子宮内膜」
・その外側にある「子宮筋層」
からできています。
子宮腺筋症は、本来は子宮内膜側にある組織に似た腺や間質が、子宮の筋肉である子宮筋層の中に存在する状態です。
良性の婦人科疾患であり、がんという意味ではありません。2026年時点でも診断や分類方法には国際的なばらつきが残っており、ESHRE・ESGE・WESが診断・分類の標準化に向けた推奨を作成しています。
子宮内膜症とは何が違うの?
名前が似ているため、混同されやすい病気です。
大まかにいうと、
子宮腺筋症
→ 子宮の筋肉の中に、子宮内膜に似た組織がみられる状態
子宮内膜症
→ 子宮以外の場所に、子宮内膜に似た組織が存在する状態
です。
子宮内膜症では、
・卵巣
・腹膜
・子宮と直腸の間
などに病変がみられることがあります。
両者は別の病気ですが、子宮腺筋症と子宮内膜症を同時にもつ方もいます。 最新の国際的な整理でも、腺筋症と子宮内膜症は区別される疾患として扱われています。
子宮筋腫とも違います
子宮筋腫も、子宮の筋肉に関係する良性疾患です。
ただし子宮筋腫では、筋肉などからできた比較的境界のわかりやすい「こぶ」のような病変ができます。
一方、子宮腺筋症では、筋層の中へ病変が広がるびまん型や、一部分に集中する限局型・腺筋腫型などがあります。
そのため、
「腺筋症が何cmあるか」
という大きさだけでは表しにくいこともあります。
どんな症状が出るの?
代表的な症状には、
・月経痛が強い
・以前より月経痛が悪化してきた
・経血量が多い
・月経期間が長い
・骨盤周囲の痛み
・性交時の痛み
などがあります。
経血量が多い状態が続けば、鉄欠乏や貧血につながることもあります。
一方で、
ほとんど症状がなく、不妊治療の超音波検査で初めて指摘される方もいます。
症状の強さだけで病変の程度を判断することはできません。
どうやって診断するの?
現在は、手術をしなくても画像検査から子宮腺筋症を評価できるようになっています。
基本となるのは、
経腟超音波検査
です。
超音波では、
・子宮筋層の左右差
・筋層内の小さな嚢胞
・筋層の不均一さ
・子宮内膜と筋層の境界の変化
・子宮が丸みを帯びて大きくなっている
などを確認します。
必要に応じてMRIが行われることもあります。
専門的な超音波検査は腺筋症診断の中心的な役割を担っており、現在は超音波とMRIを用いた非侵襲的診断が重要になっています。
子宮腺筋症があると妊娠しにくいの?
子宮腺筋症と不妊との関連は、これまで多く研究されています。
考えられている背景には、
・子宮筋の収縮の変化
・子宮内膜と筋層の境界部分の変化
・炎症や免疫環境
・子宮内膜の受容性に関係する変化
などがあります。
ただし、その仕組みがすべて解明されているわけではありません。
体外受精・顕微授精に関する研究では、腺筋症がある群で臨床妊娠率や出生率が低く、流産率が高い傾向を示した報告があります。一方で研究ごとに診断基準、年齢、腺筋症の程度、子宮内膜症の合併などが異なるため、「腺筋症がある人は一律に何%妊娠しにくくなる」とは言えません。
「腺筋症があります」だけでは治療方針は決まりません
大切なのは、
どの程度の腺筋症なのか
を他の妊活条件と合わせて考えることです。
たとえば、
・年齢
・AMHなどの卵巣予備能
・妊活期間
・卵管の状態
・精液検査
・子宮内膜症の有無
・子宮の大きさ
・病変の広がり
・月経痛や出血の程度
・これまでの胚移植回数
・保存している胚の数や状態
によって、優先順位が変わります。
腺筋症だけを見て、
「まずこれを治してからでなければ妊活できない」
と決まるわけではありません。
自然妊娠を目指している場合は?
年齢が比較的若く、卵管や精液検査などに大きな問題がなく、腺筋症も軽度であれば、タイミング法や人工授精から進める場合もあります。
一方、
・年齢を考えると時間を優先したい
・卵巣予備能が低い
・腺筋症以外の不妊要因もある
・一定期間妊娠に至っていない
場合には、体外受精などを早めに検討することもあります。
「腺筋症を治してから妊活する」
のか、
「妊娠を目指す治療を先に進める」
のかは、年齢や卵巣予備能によっても大きく変わります。
採卵を先にすることもあります
妊活中の腺筋症で特に重要なのが、
時間の考え方
です。
腺筋症へのホルモン治療を長期間行えば、その間は妊娠を目指す治療を進めにくくなることがあります。
そのため、
卵巣予備能。
年齢。
採卵できそうな卵子数。
腺筋症の状態。
これらを考え、
先に採卵して胚を保存し、そのあと子宮側の治療を考える
という方針が選ばれることもあります。
「子宮の治療」と「卵子の時間」のどちらを優先するかは、一人ひとり異なります。
GnRHアゴニストを使うことがあるのはなぜ?
子宮腺筋症では、
GnRHアゴニスト
という薬を一定期間使用し、女性ホルモンの働きを一時的に抑える治療が行われることがあります。
腺筋症による症状や子宮の状態を抑えたあと、凍結胚移植を行う方法もあります。
ただし、
「腺筋症があれば、移植前に必ずGnRHアゴニストを使う方がよい」とまでは言えません。
2025年に発表された複数の系統的レビュー・メタ解析でも、GnRHアゴニスト前治療が有利とする分析がある一方、凍結胚移植前の使用による明確な改善を確認できなかった分析もあります。
つまり現時点では、
・年齢
・腺筋症の程度
・子宮の大きさ
・過去の移植歴
・胚の状態
・副作用や治療期間
などを考えながら、個別に判断する治療です。
「ネットで見た治療を全部試す」必要はありません
腺筋症と妊活について調べると、
・長期のホルモン治療
・手術
・HIFU
・さまざまな移植方法
など、多くの選択肢が出てきます。
しかし、すべての方法について妊娠・出生率を高める十分な根拠が確立しているわけではありません。
特に妊娠を希望している場合は、
症状を治すことだけでなく、妊娠までの時間をどう使うか
も非常に重要です。
新しい治療だからという理由だけで選ばず、自分の場合に何を目的として行う治療なのかを主治医へ確認してください。
手術をすれば妊娠しやすくなる?
子宮を残しながら腺筋症の病変を切除する手術が検討されることもあります。
しかし、腺筋症は正常な子宮筋との境界が明確ではないこともあり、子宮筋腫のように簡単に病変だけを取り除けるとは限りません。
また、子宮筋層を切開する手術では、その後の妊娠・出産時に子宮の状態を注意深く管理する必要があります。
そのため、
妊娠希望の方すべてに、妊娠率を上げる目的で手術を行うわけではありません。
症状の程度、病変の範囲、年齢、これまでの治療歴などを踏まえて専門医と検討します。2023年のアジア腺筋症ガイドラインでも、妊孕性温存を希望する場合の治療は個別化が必要とされています。
妊娠できたあとも主治医へ伝えておく
腺筋症があって妊娠した場合も、
「妊娠できたから、もう腺筋症は関係ない」
とは限りません。
研究では、腺筋症のある妊娠で、
・流産
・早産
・胎盤に関係する異常
・胎児発育に関係する問題
などとの関連が報告されています。
ただし、
腺筋症があれば必ず妊娠合併症が起こるという意味ではありません。
リスクの程度は個人差が大きく、研究にもばらつきがあります。妊娠成立後は、腺筋症があることを産科の主治医にも伝え、必要な妊娠管理を受けることが大切です。
月経痛を「いつものこと」で済ませないで
妊活中の方の中には、
「生理は痛いものだから」
と、長い間痛みを我慢してきた方がいます。
しかし、
・鎮痛薬がないと仕事ができない
・以前より月経痛が強くなった
・夜中に目が覚めるほど痛い
・経血量が非常に多い
・大きな血の塊が頻繁に出る
・性交時に痛みがある
・月経以外にも骨盤痛がある
場合は、婦人科で相談してください。
痛みを我慢できるかどうかではなく、
以前と比べてどう変わっているか
も大切な情報です。
過多月経がある方は貧血にも注意
子宮腺筋症では月経量が増えることがあります。
その状態が続くと、鉄欠乏性貧血につながることがあります。
・立ちくらみ
・息切れ
・動悸
・頭痛
・強い疲労
・顔色が悪い
・階段ですぐ息が切れる
などがある場合は、
「体質だから」
「夏バテだから」
で済ませず、血液検査について医療機関へ相談してください。
妊活中に身体を整えるうえでも、貧血がある場合には原因を確認し、適切に治療することが大切です。
東洋医学ではどのように見る?
東洋医学では「子宮腺筋症」という診断名だけで施術方法を決めるのではなく、
月経痛。
経血量。
血の塊。
冷え。
疲労。
胃腸。
睡眠。
緊張。
などを合わせて身体を見ていきます。
瘀血(おけつ)
血の巡りが滞っていると捉える状態
・月経痛が強い
・刺すような痛みがある
・経血に塊が多い
・同じ場所が痛む
などがみられることがあります。
血虚(けっきょ)
身体を養う「血」が不足していると捉える状態
経血量が多い状態が続いたあとに、
・疲れやすい
・立ちくらみ
・眠りが浅い
・肌や髪の乾燥
などがみられることがあります。
肝鬱気滞(かんうつきたい)
緊張などによって気の巡りが滞っていると捉える状態
・月経前に症状が強くなる
・イライラする
・胸や脇が張る
・ため息が多い
などがみられることがあります。
腎虚(じんきょ)
身体を支える基礎的な力が不足していると捉える状態
・疲れが抜けにくい
・腰がだるい
・冷えやすい
・体力低下を感じる
などがみられることがあります。
これらは東洋医学独自の身体の捉え方です。
腺筋症そのものの診断や程度の評価は、婦人科での超音波検査やMRIなどを優先します。
鍼灸で腺筋症を治せますか?
鍼灸についても、役割を分けて考える必要があります。
鍼灸によって子宮筋層にある腺筋症の病変を消失させたり、妊娠率を高めたりできると断定することはできません。
当院では、
・月経に伴う身体的負担
・冷えやほてり
・睡眠
・胃腸の状態
・疲労
・身体の緊張
・治療中のストレス
など、婦人科や生殖医療での治療と並行して、身体全体の状態を整えていくことを目的に施術を行います。
必要な婦人科治療を鍼灸へ置き換えるのではなく、
医療機関で腺筋症を評価しながら、日常生活を送る身体を支えていく
という位置づけです。
子宮腺筋症と言われたら確認したいこと
診察では、次のようなことを確認してみましょう。
1.腺筋症はどの程度ありますか?
病変が一部なのか、広く存在するのか。
子宮の大きさも含めて確認します。
2.子宮内膜症もありますか?
両方が併存することがあります。
3.今の妊活への影響をどう考えますか?
「腺筋症がある」という事実だけではなく、自分の場合の影響を聞きます。
4.妊娠を急いだ方がよい条件はありますか?
年齢や卵巣予備能などを合わせて確認します。
5.採卵を先にした方がよいですか?
ホルモン治療を検討する場合などは、治療の順番について聞いてみましょう。
6.胚移植前に治療は必要ですか?
GnRHアゴニストなどの前治療を行うかどうかも、個別に判断されます。
「腺筋症があるから」と妊活の可能性を決めつけないで
子宮腺筋症と診断されると、
「私の子宮では妊娠できないのでは」
と考えてしまうことがあります。
でも、腺筋症があっても自然妊娠する方もいれば、人工授精や体外受精を経て妊娠・出産する方もいます。
大切なのは、
診断名だけではなく、自分の腺筋症がどのような状態で、他の妊活条件と合わせて何を優先するべきなのかを整理すること
です。
誰かの腺筋症と、自分の腺筋症は同じではありません。
ネットで見つけた成功例や失敗例を、そのまま自分の未来に当てはめなくて大丈夫です。
痛みがある夜を、ただ我慢して過ごしている方へ
腺筋症がある方にとって、
「妊娠への影響」
だけが悩みではありません。
月経が始まると痛くて眠れない。
鎮痛薬を飲むタイミングを毎回迷う。
お腹や腰が重い。
妊活中だから薬を我慢した方がよいのでは、と心配になる。
そんな夜もあると思います。
痛みを我慢することが、妊活になるわけではありません。
このテーマの続きは、8月17日の
「子宮腺筋症の痛みが不安な夜にできるセルフケア」
で、痛みがあるときの過ごし方や温め方、受診を急いだ方がよい症状について具体的にお伝えします。
【参考・出典】
欧州ヒト生殖医学会・欧州婦人科内視鏡学会・世界子宮内膜症学会(ESHRE・ESGE・WES)「子宮腺筋症の用語・分類・診断に関する適正診療推奨(2026年公開草案)」
アジア子宮内膜症・子宮腺筋症学会「子宮腺筋症ガイドライン」
Journal of Assisted Reproduction and Genetics「子宮腺筋症患者の体外受精前治療に関するシステマティックレビュー・メタ解析」
Reproductive BioMedicine Online「子宮腺筋症患者の凍結胚移植前GnRHアゴニスト治療に関するシステマティックレビュー・メタ解析」
European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology「子宮内膜症と子宮腺筋症の併存が妊孕性・妊娠転帰に及ぼす影響」
Human Reproduction Update「子宮内膜症・子宮腺筋症と妊娠・周産期転帰に関するシステマティックレビュー」
子宮腺筋症と付き合いながら、妊活を進めている方へ
子宮腺筋症があると、
「少しでも血流をよくしなければ」
「冷やしてはいけない」
「痛みを我慢した方がいいのかな」
と、身体のことを常に気にしてしまうことがあります。
ロータスリーフ 蓮心はり灸堂では、婦人科や生殖医療での診断・治療を大切にしながら、
・月経時の身体的負担
・冷えやほてり
・睡眠
・胃腸の状態
・疲労
・身体の緊張
・不妊治療の段階
・日々の生活リズム
などを確認し、その方に合った身体づくりを考えています。
腺筋症そのものを鍼灸だけで何とかしようとするのではなく、必要な医療を受けながら、妊活を続ける身体を支えていくこと。
それを大切にしています。
「子宮腺筋症と言われて、これからの妊活をどう考えればよいかわからない」
「病院での治療と並行して、痛みや体調についても相談したい」
という方は、LINEからお気軽にご相談ください。

