身体は疲れているのに、布団へ入ると頭だけが冴えてくる。
明日のこと、仕事のこと、妊活のことを考えているうちに、時計を見る回数が増えていませんか。
「早く眠らないと明日がつらい」
と思うほど、かえって身体に力が入ってしまうことがあります。
10月22日朝の記事「眠れない夜と肝火上炎」では、東洋医学の「肝火上炎」という見方を通して、イライラや熱感、考えごとと眠りの関係についてお伝えしました。
今回はその続きです。
眠れない夜に、
「もう一つ何か頑張る」のではなく、身体を少し静かな状態へ戻すための呼吸とツボ
をご紹介します。
不眠を自宅のセルフケアだけで治そうとするのではなく、今夜を少し楽に終える方法として使ってみてください。
まず「眠ろう」と頑張りすぎない
眠れないと、どうしても時計が気になります。
あと6時間。
あと5時間。
と計算しているうちに、
「もうこんな時間」
と焦りが強くなります。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、不眠が続くと、眠れないことへの不安や緊張が強まり、それ自体がさらに眠りにくさにつながることが示されています。
ですから今夜の目標は、
「必ず眠ること」ではありません。
身体を横にして休める。
考えごとを少し減らす。
呼吸をゆっくりする。
そこまでできれば十分です。
眠りは、そのあと自然についてくるものとして考えてみましょう。
呼吸は「大きく吸う」より「ゆっくり吐く」
リラックスしようとして、
「深呼吸しなきゃ」
と大きく息を吸い込む方がいます。
でも、頑張ってたくさん吸おうとすると、かえって苦しく感じることがあります。
今夜は、吸うことより吐くことを少しゆっくりするところから始めてみてください。
たとえば、
鼻から4秒ほどかけて自然に吸い、口または鼻から6秒ほどかけてゆっくり吐きます。
苦しくなければ、この呼吸を2~3分ほど繰り返します。
秒数を正確に守る必要はありません。
「吸うより吐くほうを少し長めにする」
くらいで構いません。
2026年に発表されたシステマティックレビューでは、就寝前にゆっくりした呼吸を行った研究で、本人が感じる睡眠時間や睡眠の質に改善がみられたものがありました。
一方で、睡眠計測機器などを使った客観的な評価については結果が一定しておらず、呼吸法だけで不眠が改善すると断定できる段階ではありません。
だからこそ、
「眠るための治療」ではなく、「身体を休む方向へ切り替える方法」
として使ってみてください。
2~3分で終えて大丈夫です
呼吸法も、長くやればよいわけではありません。
「10分やらないと意味がない」
と考える必要はありません。
2~3分やってみて、
少し肩の力が抜けた。
呼吸が楽になった。
という程度で終えて構いません。
途中で息苦しくなる、めまいがする、気分が悪くなる場合は中止してください。
また、呼吸の回数を数えること自体が気になってしまう方は、秒数も数えなくて大丈夫です。
いつもより少しゆっくり吐く。
それだけでも十分です。
呼吸するとき、身体を全部ゆるめようとしない
「力を抜いてください」
と言われても、実際には難しいものです。
肩をゆるめよう。
顎も。
手も。
足も。
と全部確認しているうちに、また頭を使ってしまいます。
今夜は一か所だけにしてみてください。
たとえば、息を吐くたびに肩だけ少し下げる。
あるいは、握っていた手を開くだけでも構いません。
身体全部をリラックスさせる必要はありません。
一か所だけ力を抜くことから始める。
そのほうが続けやすくなります。
ツボも「効かせる」より「触れる」くらいで
ここからは、自宅で触れやすいツボをご紹介します。
ただし、
「ここを押せば眠れる」
というものではありません。
鍼灸による不眠への研究では改善を示す報告もありますが、研究の方法や質にばらつきがあり、効果が確立しているとは言い切れません。
自宅で行うツボ押しは、さらに鍼治療とは異なります。
そのため、
眠りを治療する方法ではなく、身体へ意識を戻すセルフケア
として取り入れてください。
強く押す必要もありません。
1.神門|考えごとが続く夜に触れやすいツボ
神門(しんもん)は、手首にあるツボです。
手のひらを上へ向け、手首の横じわを小指側へたどります。
小指側の腱の近くにあるくぼみ付近が目安です。
親指の腹で5~10秒ほどやさしく触れ、離します。
これを2~3回程度繰り返してみてください。
痛いところを探す必要はありません。
東洋医学では、神門は気持ちが落ち着かないときや眠りの不調などに用いられることがあります。
ただ、今夜は、
「眠るために神門を押す」より、「手首へ触れて身体に意識を戻す」
くらいで構いません。
2.内関|緊張が抜けにくい夜に
内関(ないかん)は、手首の少し上にあります。
手のひらを上へ向け、手首の横じわから、ひじ方向へ指2~3本分ほど進んだ中央付近が目安です。
そこには2本の腱が触れる方もいます。
その間あたりを、反対側の親指でやさしく押します。
こちらも5~10秒ほどで十分です。
内関は東洋医学では、胸のつかえや吐き気、緊張などさまざまな場面で使われるツボです。
一日中仕事や妊活について考え、胸まわりに力が入っているような夜には、
呼吸と一緒にやさしく触れる
方法があります。
息を吐きながら軽く触れ、吸うときに少し力を緩めてみてください。
3.印堂|眉間に力が入っているときに
印堂(いんどう)は、左右の眉毛の内側の端を結んだ、ほぼ中央にあります。
難しい場所ではありません。
目を閉じ、眉間へ人差し指や中指の腹を軽く当てます。
押し込まず、数秒そっと触れる程度でも構いません。
考えごとが続いているときは、無意識に眉間へ力が入っていることがあります。
そんなときは、
「ここを押せば眠れる」
と考えるのではなく、
眉間の力が入っていたことに気づいて緩める
ために使ってみてください。
今夜は3つ全部やらなくても大丈夫です
呼吸法。
神門。
内関。
印堂。
ここまで読むと、
「全部やらないと」
と思うかもしれません。
でも、セルフケアが増えすぎると、それ自体が眠る前の宿題になります。
今夜は一つで十分です。
たとえば次のように決めてみてください。
- 布団へ入る前に、2分だけゆっくり呼吸する
- 神門か内関のどちらか一つへ触れる
- 終わったらスマートフォンを置く
そこまでできたら、セルフケアは終了です。
眠れなかったからといって、もう一度最初からやり直す必要もありません。
ツボは強く押さないでください
ツボ押しは、
「痛いほど効いている」
というものではありません。
翌日まで痛みが残る、青あざになる、しびれるほど強く押すのは避けてください。
また、傷や皮膚炎、腫れがある場所は刺激しないようにしましょう。
妊娠中や妊娠の可能性がある時期でも、今回ご紹介した場所へ軽く触れる程度であれば過度に心配する必要はありませんが、自宅で鍼を刺したり、強い刺激や自己流のお灸を行ったりすることは避けてください。
治療中や妊娠中で気になることがある場合は、医師や鍼灸師へ確認してください。
呼吸法をしながら「眠れたか」を判定しない
呼吸を2分したあと、
「眠くなったかな?」
と確認していませんか。
これも、眠りを遠ざける原因になることがあります。
呼吸法をしたから、すぐ眠くならなくても構いません。
少し呼吸がゆっくりした。
肩の力が減った。
考えごとが一瞬止まった。
それだけで目的は果たしています。
セルフケアの合格点を「眠れたかどうか」にしない。
ここはとても大切です。
眠れないまま時間が過ぎるときは、一度布団から離れる方法も
布団へ入って長い時間眠れず、
「ここで寝なければ」
と焦りが強くなっているときには、一度布団を出る方法もあります。
明るすぎない場所で静かに座り、読書など刺激の少ないことをして、眠気が戻ったら布団へ戻ります。
スマートフォンで妊活情報を調べ始めるのはおすすめしません。
検索は頭を再び活動モードへ戻しやすいからです。
布団を、
「眠れなくて悩む場所」にし続けないこと
も、不眠への対応では大切にされています。
夜中に時計を何度も見ない
眠れないと、現在時刻が気になります。
でも時計を見るたびに、
「あと4時間しかない」
と計算が始まります。
可能であれば、時計を少し見えにくい位置へ置いてみてください。
スマートフォンを時計代わりにしている方も、夜中に時間を見るために画面を開くと、そのまま通知やSNSを見てしまうことがあります。
目覚ましは設定したら、朝まで触らなくても大丈夫です。
妊活中だから「絶対に眠らなければ」と思わなくて大丈夫
睡眠は健康にとって大切です。
だからこそ妊活中には、
「睡眠不足だと卵子によくない?」
「今日眠れなかったら着床に影響する?」
と心配になることがあります。
でも、一晩眠れなかったことで妊娠の結果が決まるわけではありません。
睡眠について考えるなら、
今日何時間眠れたかだけではなく、生活全体の中で睡眠を整えていくことが大切です。
眠れなかった夜があれば、
翌朝に光を浴びる。
昼まで寝すぎない。
夜はまたいつもの時間へ戻す。
そんなふうに、次の日から少しずつ立て直せば構いません。
呼吸やツボでも眠れないなら「もっと頑張る」のではありません
今夜ご紹介した呼吸やツボを試しても、眠れないことはあります。
そんなとき、
別の呼吸法。
もっと多くのツボ。
サプリメント。
睡眠音楽。
と、セルフケアを次々増やす必要はありません。
不眠が続き、日中の眠気や疲労、集中力の低下などがある場合には、睡眠障害が隠れている可能性があります。
いびきや睡眠中の呼吸停止を指摘される、脚がむずむずして眠れない、強い不安や気分の落ち込みが続くといった場合にも、一度医療機関へ相談してください。
セルフケアで何とかできないことを、自分の努力不足にしないでください。
鍼灸でも「眠れるツボ」だけを使うわけではありません
ロータスリーフ 蓮心はり灸堂では、眠りについてご相談いただいた場合にも、
「不眠だから神門」
と一つのツボだけで施術を決めるわけではありません。
寝つきが悪いのか、途中で目が覚めるのか、朝早く目覚めるのかを確認し、生理周期、冷え・ほてり、胃腸、疲れ、日中の過ごし方なども一緒に見ていきます。
また、不眠が強く続いている場合には、必要な医療機関への相談を優先します。
睡眠や冷え、胃腸などを含めて身体全体をどのように整えていくのか知りたい方は、こちらをご覧ください。
今夜は「眠れたか」ではなく「少し休めたか」で終える
呼吸をした。
手首へ触れた。
スマートフォンを置いた。
それでも、すぐには眠れない夜があるかもしれません。
そんなときも、
「今日も失敗した」
と思わなくて大丈夫です。
眠りは、自分の意思だけで完全にコントロールできるものではありません。
今夜できるのは、
眠るために頑張ることではなく、身体が休める環境へ少し近づけること。
そこまでできれば十分です。
眠れない夜が続き、冷えやほてり、胃腸の不調、疲れなども重なっている方は、一度今の身体を整理してみませんか。
この記事を書いた人
菅原 裕万
ロータスリーフ 蓮心はり灸堂 院長
はり師・きゅう師・医薬品登録販売者
施術歴17年以上。妊活・婦人科・マタニティなど女性のライフステージに伴う身体の変化を中心に、睡眠・冷え・ほてり・胃腸・生理周期なども確認しながら身体づくりをサポートしています。
参考・出典
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
厚生労働省「睡眠対策」
Sleep Medicine Reviews「Slow breathing techniques before bedtime and the effects on sleep: A systematic review」(2026年)
Frontiers in Neurology「Acupuncture for chronic insomnia disorder: a systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis」(2025年)
米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)「Sleep Disorders and Complementary Health Approaches」

