「手足がいつも冷たいんです」
「子宮の血流が悪いと、着床しにくいのでしょうか?」
「妊活のことを考えると、夜中に何度も目が覚めます」
妊活中の方から、このようなご相談をいただくことがあります。
血流も睡眠も、身体の健康に関わる大切なものです。妊活について調べていると、特に気になりますよね。
ただ、手足が冷たいからといって、子宮の血流まで悪いと決まるわけではありません。また、昨夜よく眠れなかったことだけで、妊娠の可能性が変わると判断することもできません。
それでも、冷えや首肩のこり、眠りの浅さを毎日我慢し続ける必要はありません。
妊活の結果だけを追いかけるのではなく、今の身体を少しずつ楽にしていく。
今日は、血流と睡眠に対する鍼灸の研究を紹介しながら、妊活中の身体づくりについてお話しします。
妊活で気になる「血流」とは?
血液は、酸素や栄養素を全身の組織へ運び、不要になった物質を回収する役割を担っています。
子宮や卵巣も例外ではありません。これらの臓器にも血管が張り巡らされ、必要な血液が供給されています。
不妊治療では、超音波検査などによって、子宮内膜の厚さや状態を確認することがあります。必要に応じて、血流に関連する指標を評価する場合もあります。
ただし、血流は一つの数値だけで妊娠の可能性を判断できるものではありません。
「血流をよくすること」と「必ず妊娠すること」は、分けて考える必要があります。
手足の冷えと子宮の血流は同じではありません
妊活中には、「足が冷たいと子宮まで冷えているのでは?」と心配する方もいます。
しかし、手足の皮膚温は、周囲の気温や血管の収縮・拡張、体質など、さまざまな要因によって変化します。
手足が冷たいというだけで、子宮の血流状態を判断することはできません。
反対に、手足が温かければ子宮の血流が十分だと断定することもできません。
それでも、冷えによって寝つきにくい、身体がこわばる、外出がつらいといった不調があるなら、整える意味があります。
冷えを妊娠できない理由として怖がるのではなく、今困っている身体の症状として見ていきましょう。
鍼灸と子宮内膜の血流について研究されています
鍼灸が血流に与える影響については、生殖医療の分野でも研究が行われています。
2024年に医学誌『Chinese Journal of Integrative Medicine』に掲載されたランダム化比較試験では、体外受精(IVF)を受ける女性70人を対象に、採卵後から胚移植までの鍼治療が子宮内膜の血流へ与える影響を調べました。
その結果、鍼治療を受けた群では、比較群よりも子宮内膜の血流に関する一部の超音波指標が改善しました。
この研究では、子宮内膜の厚さや妊娠率、出生率について、両群の間に明確な差は確認されていません。
つまり、鍼灸による血流への働きは研究されている一方、血流指標の変化だけで妊娠結果を予測することはできません。
鍼灸を血流や身体の状態に働きかける方法の一つとして取り入れながら、妊娠に必要な医学的評価は主治医と進める。
当院でも、この両方を大切にしています。
「血流を整えたい」とき、首肩や背中にも目を向ける
妊活中に血流が気になると、どうしても子宮や卵巣だけへ意識が向きます。
でも、身体のつらさはそれだけではありません。
長時間のデスクワークで首肩がこっている。仕事と通院で背中まで張っている。緊張すると無意識に肩が上がり、呼吸も浅く感じる。
そんな方もいます。
鍼灸では、腹部だけを施術するのではなく、首肩や背中、手足など、身体全体の状態を確認できます。
慢性的な首の痛みに対する鍼灸については、痛みや身体機能の改善を報告した研究もあります。
子宮のことが気になって鍼灸を始めた方でも、今つらい首肩のこりや身体の緊張を一緒に相談できる。
それも、妊活中に鍼灸を取り入れるメリットです。
睡眠は妊活中の身体づくりでも大切です
睡眠中、身体は単に活動を停止しているわけではありません。
睡眠・覚醒のリズムには体内時計が関わり、体温やホルモン分泌など、さまざまな身体機能も時間帯に応じて変化しています。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は個人差を踏まえつつ、おおむね6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保し、睡眠によって休養が取れている感覚も大切にすることが示されています。
妊活中は、仕事や家事に加えて通院の予定が入り、睡眠時間を確保しにくくなることがあります。
さらに、採卵や胚移植、判定日への不安から、布団へ入っても考え事が止まらないという方もいます。
そんなときは、睡眠を妊活の新しい宿題にするのではなく、今より休みやすい生活を一緒に考えていきましょう。
眠れないことまで自分の責任にしない
「睡眠不足は妊活によくない」という情報を見ると、眠れないこと自体が新しい不安になってしまいます。
「もう23時なのに眠れない」
「昨夜4時間しか眠れなかった」
「こんな生活だから妊娠できないのかな」
と、自分を責めてしまう方もいるでしょう。
睡眠と生殖医療の関係については研究が進んでいますが、一晩の睡眠時間だけで、その周期の結果が決まるわけではありません。
眠れない夜があったとしても、そのことでさらに自分を追い詰めないでください。
大切なのは、毎晩完璧に眠ることではなく、休める夜を少しずつ増やしていくことです。
鍼灸による睡眠への働きも研究されています
2025年に発表された慢性不眠症に対するシステマティックレビュー・メタ解析では、10件の試験、合計757人のデータが検討されました。
その結果、鍼治療を受けた群では、比較群よりも主観的な睡眠の質や不眠症状に関する評価指標が改善したと報告されています。
睡眠時間など客観的な指標については、さらに研究が必要とされていますが、眠りの質に悩む方が鍼灸を取り入れることには、臨床研究に基づく期待があります。
もちろん、妊活中の方全員が鍼灸によって同じように眠れるようになるとは限りません。
当院では、寝つきの悪さ、中途覚醒、早朝覚醒など、具体的にどのような困り事があるのかを確認して施術を組み立てます。
寝つけない人と、夜中に目が覚める人では違います
同じ「眠れない」というご相談でも、状態は一人ひとり違います。
例えば、次のような違いがあります。
- 寝つきにくい:布団へ入っても考え事が止まらず、眠るまで時間がかかる。
- 夜中に目が覚める:途中で何度も起き、一度目が覚めると眠れない。
- 朝早く目が覚める:予定よりかなり早く目が覚め、そのあと眠れない。
- 眠った気がしない:睡眠時間は確保できていても、朝から疲れが残っている。
妊活の予定が気になって眠れない方もいれば、首肩の痛みや、ほてり、胃腸の不快感などで夜中に目が覚める方もいます。
だからこそ、睡眠だけを切り離すのではなく、身体全体の状態を見ることが大切です。
血流と睡眠を、一つの身体として考える
血流と睡眠は別々のテーマに見えますが、身体の中では互いに関わっています。
例えば、夜になると身体の内部の温度は睡眠に向けて変化し、手足から熱を放散する働きも入眠に関わっています。
だからといって、手足を熱くすれば必ず眠れるわけではありません。
ただ、足先が冷たくて眠れない方なら、気持ちよく温めることが寝る前のケアになる場合があります。
また、首肩のこりが強く、痛みで寝返りを打ちにくい方なら、そのつらさを整えることが、夜の過ごしやすさにつながることもあります。
血流だけ、睡眠だけではなく、今の身体で何が重なっているのかを見る。
鍼灸では、こうした視点を大切にしています。
東洋医学ではどのように見るの?
東洋医学では、血液検査や超音波で評価する血流と、東洋医学でいう「血(けつ)」を同じものとして扱いません。
「血」は東洋医学独自の考え方で、全身を養う働きなどと関連づけられています。
また、症状の組み合わせから、次のような状態を考えることがあります。
肝鬱気滞(かんうつきたい)|緊張が抜けにくい状態
首肩の張り、ため息、胸やお腹の張り、月経前の不調などが重なる場合に考えます。
血虚(けっきょ)|疲れや眠りの浅さが目立つ状態
疲れやすさ、立ちくらみ、眠りの浅さなどを合わせて見ます。
脾虚(ひきょ)|胃腸の弱りや疲労が重なる状態
食欲低下、胃もたれ、軟便、身体のだるさなどを確認します。
瘀血(おけつ)|慢性的な痛みなどが重なる状態
同じ場所に続く痛みや月経痛などを確認する際に用いる考え方です。
これらは医学的な貧血、血管の病気、子宮の血流異常などを診断するものではありません。
当院では、必要な医学的検査と東洋医学的な体質の評価を分けながら、施術に生かしています。
妊活中の鍼灸は、いつから始めればいい?
「移植の直前に行った方がいいですか?」
という質問をいただくことがあります。
もちろん、胚移植前に身体の状態が気になり、ご相談いただくこともできます。
ただ、当院では、特定の日に一度施術すればよいとは考えていません。
妊活中の身体づくりとしては、治療予定と体調を確認しながら、継続して身体を見ていく方法があります。
例えば、採卵前から睡眠や疲労を整えたい方、胚移植を休む周期に胃腸や首肩のこりを改善したい方、治療が続く中で身体の緊張をゆるめたい方など、始める理由はさまざまです。
次の治療日だけに合わせるのではなく、今の身体から施術を始められること。
それが、継続的に鍼灸を取り入れるメリットです。
蓮心はり灸堂では、血流だけを見て施術を決めません
「子宮の血流をよくしたいです」
「眠りが浅いので整えたいです」
というご相談をいただいたときも、一つの症状だけで施術を決めるわけではありません。
当院では、次のようなことを確認します。
- タイミング法・人工授精・体外受精など現在の治療段階
- 採卵や胚移植の予定、これまでの治療経過
- 検査結果と現在使用している薬
- 月経周期、月経痛、月経前の不調
- 寝つき、中途覚醒、朝の目覚め
- 胃腸や便通
- 冷え・のぼせ、疲労
- 首肩や背中の緊張
そのうえで、その日の身体の状態に合わせて鍼やお灸を組み合わせます。
採卵前と胚移植後では、身体の状態や注意点も違います。妊娠の可能性がある時期も含め、現在の治療状況を確認しながら施術を進めます。
「妊活だから同じ施術」ではなく、今のあなたの身体に合わせた施術。
当院が大切にしているのは、その考え方です。
睡眠に悩んでいるときは、医療機関への相談も大切
眠れない状態が長く続き、日中の生活へ影響している場合には、医療機関で相談しましょう。
また、大きないびきや睡眠中の呼吸停止を指摘される、日中の強い眠気が続くといった場合には、睡眠時無呼吸症候群などの確認が必要になることがあります。
慢性的な不眠に対しては、不眠症の認知行動療法(CBT-I)など、医学的な治療法もあります。
必要な医療と鍼灸を上手に組み合わせながら、身体を整えていきましょう。
今日からできる血流と睡眠のセルフケア3つ
1.長時間同じ姿勢を続けない
仕事中など、座りっぱなしになりやすい方は、無理のない範囲で立ち上がったり、肩を軽く動かしたりしてみましょう。
採卵後などに運動制限を指示されている場合は、主治医の指示を優先してください。
2.朝から日中に光を浴びる
朝起きたらカーテンを開け、可能なら日中に少し外へ出てみましょう。朝から日中の光は、睡眠・覚醒リズムの調整に役立ちます。
3.寝る前に身体を休ませる時間をつくる
就寝前のスマートフォンでの検索を少し早く終える、気持ちよく入浴する、首肩の力を抜くなど、自分に合う方法を一つ選びます。
全部を毎日行う必要はありません。今の生活で無理なく続けられるところから始めてみてください。
「血流が悪いから妊娠できない」と自分を責めない
手足が冷たいとき。
内膜の厚さが気になるとき。
眠れない夜が続いたとき。
妊活中は、身体の小さな変化まで妊娠の結果と結びつけたくなることがあります。
でも、妊娠や不妊治療の結果にはさまざまな要因が関係しています。
冷えや睡眠不足を、自分が妊娠できない理由として一人で背負う必要はありません。
一方で、今感じている身体のつらさを後回しにする必要もありません。
妊娠の結果がまだ分からなくても、今日の身体を少し楽にすることはできます。
そのために鍼灸を活用していただけたらと思います。
このテーマの続きは9月29日の夜に
鍼灸で血流や睡眠を整えたいと思っても、初めての方には疑問があると思います。
「採卵や胚移植の前から始めた方がいい?」
「どのくらいの頻度で通えばいい?」
「病院の治療と一緒に受けられる?」
このテーマの続きは、9月29日夜公開の「妊活鍼灸を始める前に知っておきたいこと」で、初めて鍼灸を検討している方へ向けて具体的にお話しします。
血流や睡眠が気になっている方へ
妊活中には、子宮や卵巣のことばかりが気になり、毎日の身体のつらさを後回しにしてしまうことがあります。
でも、首肩がつらい、眠れない、胃腸が弱っている、疲れが取れないという状態も、今のあなたの身体です。
蓮心はり灸堂では、治療の予定や検査結果を確認しながら、睡眠、胃腸、月経、冷え・のぼせ、疲労、首肩の緊張などを含めて施術を組み立てています。
「まだ採卵や移植の日は決まっていないけれど、今から身体を整えたい」
という段階でも構いません。
次の治療へ向かう身体を、今日から少しずつ整えていきましょう。
参考・出典
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
Chinese Journal of Integrative Medicine「体外受精・胚移植を受ける女性における鍼治療が子宮内膜血流へ与える影響:ランダム化比較試験」(2024年)
Frontiers in Neurology「慢性不眠症に対する鍼治療:システマティックレビュー・メタ解析および逐次解析」(2025年)
米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)「睡眠障害と補完的健康アプローチ」
BMC Pregnancy and Childbirth「体外受精・顕微授精を受ける女性の睡眠障害と生殖補助医療成績:システマティックレビュー・メタ解析」(2026年)

