「鍼灸が妊活によいと聞いたけれど、いつから始めたらいいですか?」
「体外受精をしていても受けられますか?」
「移植の直前だけ受ければいいのでしょうか?」
初めて妊活中の鍼灸を検討している方から、よくいただく質問です。
病院へ通いながら、薬やサプリメントにも気をつけている。そのうえで新しく鍼灸を始めるとなると、
「本当に自分に必要なのかな」
「病院の治療に影響しないかな」
と迷うのも自然だと思います。
9月26日朝の「鍼灸で整えたい血流と睡眠」では、妊活中に気になる血流や睡眠と鍼灸についてお話ししました。
今夜はその続きとして、
実際に鍼灸を始めようと思ったとき、知っておいてほしいこと
を具体的に整理します。
妊活鍼灸は「移植直前だけ」のものではありません
鍼灸というと、
「胚移植の前後に受けるもの」
というイメージを持つ方がいます。
実際に、胚移植前後の鍼灸については多くの研究が行われてきました。
ただ、妊活中の女性が鍼灸へ相談する理由は、それだけではありません。
例えば、
- 睡眠が浅く、朝から疲れている
- 首肩や背中のこわばりが強い
- 手足の冷えが気になる
- 胃腸の調子が不安定
- 月経前後の不調がつらい
- 採卵や胚移植が続き、身体に力が入りっぱなしになっている
といった身体の悩みを抱えている方もいます。
このような場合には、移植日が決まるまで待つ必要はありません。
妊娠の結果だけではなく、妊活を続けている今の身体から整えていく。
それが、継続して鍼灸を取り入れる一つの考え方です。
いつから始めればいい?
「採卵の何か月前から始めるべきですか?」
という質問もあります。
現時点では、
「妊活鍼灸は必ず○か月前から始めればよい」という医学的に確立した期間はありません。
だからこそ、日付だけで決めるのではなく、今の身体と今後の治療予定から考えます。
例えば、採卵まで時間がある方なら、睡眠や胃腸、首肩のこり、疲労など、普段から気になっている不調を確認しながら身体を整えていくことができます。
すでに採卵周期へ入っている方でも、使用している薬や採卵予定日を確認しながら施術を組み立てます。
胚移植を予定している場合も同じです。
「もっと早く始めればよかった」と焦る必要はありません。
気になった今が、ご自身の身体について相談する一つのタイミングです。
タイミング法や人工授精の段階でも受けられます
体外受精へ進んでから鍼灸を始める方もいますが、タイミング法や人工授精の段階から相談することもできます。
月経痛が強い。
排卵期になると身体がつらい。
仕事の疲れが取れない。
夫婦生活のタイミングが続き、気持ちまで疲れている。
そんな状態があるなら、治療段階に関係なく身体を整えていくことができます。
現在どの治療を受けているかを確認したうえで、その時期の身体に合わせて施術します。
採卵周期でも鍼灸を受けられる?
採卵周期では、排卵誘発剤やホルモン剤を使用しながら卵胞を育てることがあります。
この時期も、治療内容や体調を確認したうえで鍼灸を行うことができます。
ただし、採卵が近づくと卵巣が大きくなり、お腹の張りや違和感を感じる方もいます。
そのため当院では、
使用している薬。
卵胞の育ち方。
採卵予定日。
腹部の張りや痛み。
などを確認しながら、その日の施術内容を調整します。
採卵後も、強い腹痛、急激なお腹の張り、息苦しさ、急な体重増加などがある場合には、鍼灸より先に採卵を受けた医療機関へ相談してください。
病院で必要な確認を受けながら、日常の身体を鍼灸で整える。
この役割分担を大切にしています。
胚移植周期ではどうする?
胚移植周期では、自然周期なのか、ホルモン補充周期なのかによっても治療内容が違います。
使用している薬や移植予定日、子宮内膜の状態などを確認しながら施術します。
「移植当日に受けなければ意味がない」
と考える必要はありません。
胚移植当日の鍼灸についてはこれまで多くの研究がありますが、出生率を確実に高める方法として結論が出ているわけではありません。
一方で、体外受精中の鍼灸については、不安や治療に伴う痛みなどへの補助的な効果も研究されています。
2025年のシステマティックレビュー・メタ解析では、42試験・7,400人を対象に検討され、鍼灸を補助的に取り入れた群で不安や一部の生殖成績への効果が報告されました。ただし、研究結果にはばらつきがあり、今後さらに質の高い研究が必要とされています。
だから当院では、
「移植日に一度受ければ妊娠率が上がる」という施術ではなく、治療期間を通して身体の状態を確認する
ことを大切にしています。
病院の不妊治療と鍼灸は一緒に受けてもいい?
基本的には、生殖医療を受けながら鍼灸を取り入れることができます。
鍼灸のために、病院から処方された薬を自己判断で中止する必要はありません。
むしろ、現在使用している薬や治療予定を鍼灸師にも伝えてください。
例えば、
排卵誘発剤。
黄体ホルモン製剤。
貼付薬。
自己注射。
アスピリンやヘパリンなど。
現在の治療内容を知ることで、その日の身体の状態や施術上の注意点を確認しやすくなります。
病院の治療と鍼灸を競わせるのではなく、それぞれの役割を生かす。
これが妊活中に鍼灸を取り入れる基本です。
病院の先生に「鍼灸を受けています」と伝えた方がいい?
伝えられるのであれば、主治医にも鍼灸を受けていることを伝えておくと安心です。
特に、
妊娠が分かった。
薬が変わった。
採卵や手術を受ける。
出血が続いている。
安静や運動制限を指示された。
といった場合には、医療機関からの指示を鍼灸院でも共有してください。
また、病院で「今日は安静にしてください」と言われている場合には、その指示を優先します。
鍼灸は医療機関での治療を置き換えるものではなく、妊活を続けている身体を支えるために組み合わせていくものです。
どのくらいの頻度で通えばいい?
ここも気になりますよね。
「週1回ですか?」
「月2回でも意味がありますか?」
鍼灸には、妊活中のすべての方に共通する、医学的に確立された通院回数はありません。
当院では、
現在の治療段階。
採卵や胚移植までの期間。
身体の不調。
仕事や家庭の予定。
通院による負担。
などを確認して決めていきます。
治療予定が続き身体の変化を確認したい時期には、比較的間隔を詰めて施術することがあります。
状態が安定してくれば、間隔を調整する場合もあります。
大切なのは、
妊活のために鍼灸へ通うこと自体が新しい負担にならないこと。
無理なく続けられる形を一緒に考えていきます。
「何回受ければ妊娠できますか?」について
これは、とても気になる質問だと思います。
ただ、
3回受ければ妊娠する。
3か月通えば結果が出る。
というように、回数と妊娠を直接結びつけることはできません。
妊娠には、年齢、卵子や精子の状態、胚の状態、子宮・卵管の状態など、さまざまな要因が関係します。
鍼灸で大切にしたいのは、
眠りが少し深くなった。
首肩のこりが以前より楽になった。
胃腸の状態が落ち着いてきた。
月経前の身体が以前より過ごしやすくなった。
というような、今の身体に現れている変化も丁寧に確認することです。
妊娠という一つの結果だけではなく、妊活を続ける身体そのものを整えていきます。
初めての鍼灸。痛くない?
鍼を経験したことがない方にとっては、
「注射みたいに痛いのかな」
という不安があると思います。
鍼灸で使用する鍼は、採血や注射に使う針とは目的も形状も異なり、一般的にとても細いものを使用します。
刺激の感じ方には個人差がありますが、ほとんど何も感じない場所もあれば、軽くチクッとしたり、重だるいような独特の感覚が出たりする場合があります。
当院では、鍼に慣れていない方へ最初から強い刺激を行うのではなく、反応を確認しながら進めます。
「鍼が怖いです」と最初に言っていただいて大丈夫です。
苦手な刺激を我慢して受ける必要はありません。
鍼灸は安全なの?
適切に行われる鍼灸は、一般的に安全性の高い施術とされています。
米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)も、経験のある施術者が滅菌された鍼を使用して適切に行う場合、鍼灸の合併症は比較的少ないとしています。
ただし、施術後に小さな内出血、出血、だるさなどが出ることがあります。
現在、
出血しやすい薬を使用している。
出血や血腫がある。
妊娠している、または妊娠の可能性がある。
手術や採卵の直後である。
といった場合には、必ず事前にお知らせください。
当院では、使い捨ての鍼を使用し、身体の状態や治療状況を確認しながら施術を行います。
初回に何を伝えればいい?
初めて妊活中の方へ施術するとき、私が知りたいのは、
「不妊の原因は何ですか?」
だけではありません。
例えば、
- これまでどのような不妊治療を受けてきたか
- 現在はタイミング法・人工授精・体外受精のどの段階か
- 採卵数、受精や胚培養、胚移植の経過
- AMHやホルモン検査など、分かっている検査結果
- 現在使用している薬やサプリメント
- 月経周期や月経痛
- 睡眠、胃腸、便通
- 冷え・のぼせ、疲労
- 首肩や腰などの身体のつらさ
などです。
全部覚えている必要はありません。
検査結果や病院からもらった資料が手元にあれば、お持ちいただくと現在の状況を確認しやすくなります。
基礎体温表をつけている方は、それも参考になります。
もちろん、検査結果や基礎体温表が手元になくてもご相談いただけます。
「検査結果を見せても大丈夫?」と思わなくていい
AMH。
FSH。
LH。
E2。
TSH。
精液検査。
採卵結果。
胚培養記録。
妊活が長くなるほど、検査結果の紙が増えていきます。
当院で医学的な診断を行うわけではありませんが、治療内容を理解し、身体の状態と今後の予定を確認するために、検査結果は大切な情報になります。
「先生から説明を受けたけれど、数字の意味がよく分からない」
という場合も、分かる範囲で一緒に整理します。
必要な医学的判断については、主治医へ確認していただきます。
蓮心はり灸堂の初回は、身体のことを話す時間も大切にしています
当院の初回は、施術だけを行って終わりではありません。
現在の妊活・不妊治療の状況、これまでの経過、月経、睡眠、胃腸、疲労、冷え・のぼせなどについてお聞きし、その日の身体を確認してから施術へ進みます。
初回の所要時間は約90分です。
余裕を持って120分程度を見ていただくと安心です。
初回カルテの記入がありますので、可能であれば予約時間の10~15分ほど前にお越しください。
妊活について誰かに話すだけでも、最初は緊張すると思います。
話したくないことを無理にお聞きするのではなく、
「今、何に一番困っているのか」
から一緒に整理していきます。
鍼灸を始める前に確認したい3つ
1.今、身体で一番困っていることは何か
妊娠という結果だけでなく、眠れない、首肩がつらい、胃腸が弱っているなど、今感じている身体の状態も確認してください。
2.現在の治療予定と薬を整理する
次の採卵や胚移植はいつなのか、今どのような薬を使っているのかを、分かる範囲で整理しておきましょう。
3.無理なく続けられるか考える
仕事や病院への通院だけでも負担がある時期です。距離、時間、費用も含め、継続できる方法を相談しましょう。
「妊活には鍼灸も絶対に必要だから」と、新しい義務を増やす必要はありません。
今の身体を少しでも整えたい。
その気持ちから始めていただければ十分です。
東洋医学では「不妊」という一つの体質に当てはめません
同じ体外受精を受けている女性でも、身体の状態はまったく同じではありません。
ある方は、首肩の緊張が強く眠りが浅い。
ある方は、胃腸が弱く食欲が安定しない。
ある方は、月経痛や冷えが気になる。
東洋医学では、こうした身体の違いを「気・血・水」や「肝・脾・腎」などの考え方から整理していきます。
例えば、緊張が続き首肩の張りやため息が目立つ場合には肝鬱気滞、疲れや胃腸の弱りが目立つ場合には脾虚、疲労や年齢に伴う変化などを含めて腎の状態を見ることがあります。
ただし、
「不妊だから腎虚」
「冷えがあるから妊娠しにくい」
と一つの型へ当てはめるわけではありません。
西洋医学で分かっている治療状況と、今身体に出ている症状の両方を見る。
そこから、その方に合った施術を考えていきます。
鍼灸を受ける時間そのものを、妊活から少し身体へ戻る時間に
妊活が長くなると、
卵胞はいくつ?
内膜は何mm?
胚のグレードは?
ホルモン値はいくつ?
と、身体を数字で見る時間が増えていきます。
もちろん、それらは治療を進めるための大切な情報です。
でも、本当の身体には、
今日は眠れた。
胃が少し楽だった。
肩の力が抜けた。
今日は疲れている。
という感覚もあります。
鍼灸を受ける時間は、数字だけではなく、自分の身体そのものへ目を向ける時間にもなります。
妊活のために身体を管理するだけではなく、今の身体を少し楽にしてあげる。
その積み重ねも、長く続く妊活では大切だと考えています。
「相談だけでも大丈夫かな」と迷っている方へ
まだ採卵の日程が決まっていない。
体外受精へ進むか迷っている。
病院を変えるか検討している。
そんな時期でも、ご相談いただけます。
治療計画が完全に決まってから鍼灸を始めなければならないわけではありません。
現在分かっている範囲から身体を見て、治療予定が変われば、その都度施術も調整していきます。
妊活は予定通りに進まないことがあります。
だからこそ、施術も「決められたコースをこなす」のではなく、その時々の身体と治療状況に合わせて考えていきます。
鍼灸を取り入れてみたいと思った方へ
妊活中は、
もっと運動した方がいい。
もっと食事を整えた方がいい。
もっと早く寝た方がいい。
と、「もっと頑張ること」が増えやすくなります。
鍼灸まで、新しく頑張らなければならないことの一つにしなくて大丈夫です。
自分ではなかなか抜けない身体の緊張を、施術の時間は少し任せてみる。
首肩がつらいなら、そこから整える。
眠りが浅いなら、眠りの状態から確認する。
胃腸が疲れているなら、食事をさらに厳しくする前に身体を見直す。
妊活を頑張っている身体に、整える時間を加える。
そんな気持ちで鍼灸を取り入れていただけたらと思います。
蓮心はり灸堂では、現在の治療段階や検査結果を確認しながら、一人ひとりの身体に合わせて施術を行っています。
初めての方も、
「鍼灸が自分に合うか分からない」
というところからご相談ください。
参考・出典
米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)「Acupuncture: Effectiveness and Safety」
欧州生殖医学会(ESHRE)「Good practice recommendations on add-ons in reproductive medicine」
米国生殖医学会(ASRM)「Performing the Embryo Transfer: A Guideline」
International Journal of Nursing Studies(2025年)「体外受精を受ける女性に対する鍼灸:逐次解析を含む最新のシステマティックレビュー・メタ解析」
Reproductive BioMedicine Online(2022年)「体外受精に伴う不安に対する鍼灸の効果:システマティックレビュー・メタ解析」

