夜になると、いろいろ考えてしまう。
妊活のことを調べ始めると、やめどきが分からなくなる。
眠らないといけないのに、気持ちだけが休まらない。
そんな夜を過ごしている方は、少なくないと思います。
妊活中は、排卵日や生理予定日、通院の予定、検査結果、周りの言葉。
いろいろなことが気になって、以前より眠りにくくなることがあります。
そして眠れない日が続くと、心まで弱くなってしまったように感じて、自分を責めてしまう方もいらっしゃいます。
でも、まず最初にお伝えしたいことがあります。
睡眠不足で心や体がつらくなるのは、気持ちが弱いからではありません。
睡眠は、ただ休むためだけの時間ではなく、感情、食欲、ホルモン、集中力、疲労回復などを支える土台です。
だからこそ、妊活中に睡眠が乱れると、心にも体にも思っている以上に影響が出やすくなります。
妊活中の睡眠不足は、珍しいことではありません
妊活をしていると、
「ちゃんと整えなければ」
「何かできることを増やしたい」
という気持ちが強くなりやすいものです。
その結果、夜遅くまで検索を続けたり、考えごとが止まらなくなったりして、眠りが浅くなることがあります。
不妊や妊活に向き合う過程では、感情的な負担を感じる方が多く、心理的なつらさが治療継続にも影響しうることが、ESHRE(ヨーロッパヒト生殖医学会)の心理社会的ケアのガイドラインでも示されています。
また、2024年の系統的レビューでは、睡眠障害や睡眠の乱れが、女性不妊や治療成績の悪化と関連する可能性が報告されています。ただし、こうした研究の多くは観察研究で、睡眠不足だけが直接の原因と断定できるわけではありません。
つまり、妊活中に眠れなくなること自体は珍しくありません。
大切なのは、
「眠れない自分はだめだ」
と責めることではなく、
睡眠が乱れている今の状態を、ひとつの大事なサインとして見てあげることです。
睡眠不足は、心の余裕を奪いやすくなります
睡眠が足りないと、まず出やすいのが、気持ちの余裕のなさです。
CDC(米国疾病予防管理センター)は、良い睡眠が健康だけでなく感情面のウェルビーイングにも大切だとしています。
NHLBI(米国国立心肺血液研究所)も、睡眠不足は気分の落ち込み、集中力の低下、判断力の低下、ストレスへの弱さにつながりうると説明しています。
妊活中はもともと、ちょっとした言葉や予定のずれに心が揺れやすい時期です。
そこに睡眠不足が重なると、
・普段なら流せることに傷つく
・涙もろくなる
・イライラしやすくなる
・検索をやめられなくなる
・前向きに考えたいのに考えられない
といったことが起こりやすくなります。
これは、心が弱いからではありません。
睡眠不足の中で、心が頑張り続けている状態なのです。
睡眠不足は、体の整いにくさにもつながります
睡眠が足りないと、気持ちだけでなく体にも影響が出やすくなります。
NHLBI(米国国立心肺血液研究所)では、睡眠不足が続くと、代謝、食欲、ホルモン調整、免疫、循環器系などに影響しうると説明しています。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、成人ではおおよそ6〜8時間が適正な睡眠時間と考えられ、少なくとも6時間以上の確保に努めることが推奨されています。CDC(米国疾病予防管理センター)は、18〜60歳の成人では7時間以上を推奨しています。
妊活中の睡眠不足で出やすい体のサインとしては、
・朝からだるい
・冷えが強く感じる
・甘いものやカフェインに頼りやすい
・食欲が安定しない
・首肩がこる
・生理前の不調が強くなる
・疲れているのに眠りが浅い
などがあります。
睡眠不足があると、整えようとしているのに整いにくい、という感覚になりやすいのは、このためです。
睡眠不足があっても、「それだけで妊娠できない」わけではありません
ここは、必要以上に不安を大きくしないために大切なところです。
睡眠不足は、妊活中の心身にとって無視できない要素ですが、
眠れていないから妊娠できない
と単純化できるものではありません。
妊活で本当に大切なのは、
排卵しているか
卵管の通り道に問題がないか
子宮の状態に大きな問題がないか
男性側の精液所見に大きな問題がないか、
という医療機関で確認すべき基本を押さえることです。ASRM(アメリカ生殖医学会)も、不妊の評価ではこれらを系統的に確認することを勧めています。
だからこそ、睡眠は大切でも、
「眠れていないから全部だめだ」
と自分を追い詰めすぎなくて大丈夫です。
睡眠は、妊活の結果を単独で決めるものではなく、心と体を支える土台のひとつとして考えるのが自然です。
東洋医学では、睡眠不足は「気血」と「肝」の乱れとしてみることがあります
東洋医学では、眠りの質は、単に疲れているかどうかだけではなく、
気(き)・血(けつ)・水(すい)の巡りや、肝・脾・腎のバランスと深く関わると考えます。
とくに春から初夏にかけては、「肝」のバランスが乱れやすい時期です。
肝は、気の巡り、感情、目、筋肉とも関わると考えられているため、この時期に緊張や我慢が続くと、
・ため息が増える
・イライラしやすい
・目が疲れる
・首肩がこる
・眠ろうとしても頭が休まらない
・生理前に不調が強くなる
といった変化が出やすくなります。
このような状態を、東洋医学では
肝鬱気滞(かんうつきたい)
とみることがあります。
さらに、眠れない日が続いて食欲が乱れたり、朝がつらくなったりすると、胃腸を支える「脾」も疲れやすくなり、
肝脾不和(かんぴふわ)
のように、心と体の両方が整いにくくなることがあります。
つまり、睡眠不足は、ただ「寝不足」というだけではなく、
巡りの悪さや、回復する力の低下として体にあらわれることがあるのです。
こんな睡眠の悩みは、医療機関に相談して大丈夫です
眠りの悩みは、我慢しやすい不調のひとつです。
でも、次のような場合は、医療機関に相談して大丈夫です。
・寝つけない、途中で何度も起きることが続く
・日中の生活に支障が出ている
・週に3回以上、眠りの問題がある
・それが3か月以上続いている
・大きないびきや、睡眠中の無呼吸を指摘される
・日中の強い眠気がある
NHLBI(米国国立心肺血液研究所)では、週3回以上の入眠困難や中途覚醒などが3か月以上続く場合は慢性不眠症として評価されうるとしています。
また、いびき、睡眠中のあえぎ、日中の強い眠気がある場合は睡眠時無呼吸症候群の可能性もあるため、医療機関への相談が勧められています。
妊活中だからこそ、「これくらい我慢しなければ」と抱え込みすぎないでください。
必要な時には、睡眠そのものを相談してよいのです。
不妊・妊活における鍼灸の役割
ここも、誠実にお伝えしたいところです。
鍼灸は、睡眠障害の診断をするものでも、医療機関での検査や治療の代わりになるものでもありません。
無呼吸や慢性不眠が疑われる場合は、まず医療機関で確認することが大切です。
その一方で、妊活中に重なりやすい
・首肩のこわばり
・気持ちの張りつめ
・冷え
・眠りの浅さ
・生理前後の不調
といった、毎日を過ごしにくくする要素を、東洋医学の視点から整える支えにはなれます。
HFEA(英国の胚研究認可庁)は、鍼灸について、妊娠率を高める明確な根拠は十分ではない一方で、ストレス軽減やウェルビーイング向上(心身・社会的・経済的に「満たされた持続的な健康状態」を目指す取り組み)のために用いられることがあると案内しています。
当院でも、鍼灸を「結果を約束する方法」としてではなく、妊活中の心と体の土台を整える補助的な支えとして位置づけています。
今日からできる3つのこと
1.睡眠時間だけでなく「休まった感じ」を見てみる
厚生労働省のGood Sleepガイドでは、睡眠休養感、つまり「朝起きた時に休まった感じがあるか」も大切な目安とされています。
時間だけでなく、
起きた時に少しでも休まった感じがあるか
昼間に強い眠気が続かないか
も見てみてください。
2.夜のスマホ、遅い夕食、カフェインを見直す
厚生労働省のGood SleepガイドやCDC(米国疾病予防管理センター)では、
・夜間のスマホやパソコンを避ける
・就寝間際の夕食や夜食を控える
・カフェイン、飲酒、喫煙を控える
・規則正しい起床時刻を心がける
ことが、良い睡眠のために大切だと案内しています。
妊活中は、何か特別なことを足す前に、まずこの基本を整えるだけでも十分意味があります。
3.「眠れない理由」を自分のせいにしすぎない
眠れない夜が続くと、
気持ちの持ちようが悪いのでは
自分が弱いのでは
と思ってしまうことがあります。
でも、睡眠はとても繊細で、ストレス、環境、体調、生活リズムの影響を受けやすいものです。
だからこそ、眠れない時は自分を責めるより、
「今は少し張りつめているのかもしれない」
と見てあげてください。
その見方だけでも、心は少しやわらぎます。
自分でやさしく触れやすいツボ
眠りにくさや気持ちの張りつめが気になる時に、使いやすいツボがあります。
神門(しんもん)
手首の横紋(しわ)の上で、小指側の腱の内側のくぼみ。
気持ちがそわそわする時、眠りに入りにくい時に使いやすいツボです。
太衝(たいしょう)
足の甲、親指と人差し指の骨が交わる手前。
ため息が増える時、イライラしやすい時、気の巡りを整えたい時に使いやすいツボです。
どちらも、痛いほど押す必要はありません。
息を吐きながら、少し気持ちいい程度でやさしく触れてみてください。
妊娠の可能性がある時や体調に不安がある時は、無理をせずご相談ください。
当院の考え方
当院では、妊活中の睡眠不足を軽く見ません。
でも、眠れないことを必要以上に怖がらせることもしません。
大切なのは、
睡眠不足を「気合いで乗り切ること」ではなく、
今の心と体にどんな負担がかかっているのかを整理することです。
必要な検査や治療は医療機関で確認する。
そのうえで鍼灸では、
冷え
自律神経の乱れを感じる状態
首肩の緊張
眠りの浅さ
気持ちの張りつめ
などを、東洋医学の視点から整える支えになる。
当院は、その立ち位置をとても大切にしています。
眠れない夜があっても、あなたがだめなわけではありません
眠れない夜は、心が弱くなったように感じることがあります。
周りは普通に過ごしているように見えるのに、自分だけうまく休めない。
そんなふうに、ひとり取り残されたように感じることもあるかもしれません。
でも、どうか忘れないでください。
眠れない夜があることと、あなたの価値が下がることは、まったく別です。
妊活中は、想像している以上に、心も体も頑張っています。
だからこそ、眠れない時は
「もっと頑張らなきゃ」
ではなく、
「少し休ませる方法を探そう」
と考えてあげてください。
睡眠は、妊活を支える大切な土台です。
完璧に眠れなくても大丈夫です。
まずは、今の眠りの状態を責めずに見てあげること。
そこから少しずつ整えていきましょう。
ひとりで抱えず、まずは今の心と体の状態を一緒に整理するところから始めていきましょう。

